昔あるところに、川を挟んで東と西に二軒の紺屋があった。二人の紺屋はいつもその川で、染めた布を水洗いしていた。
ある日、白い髭を生やしたお爺さんが二軒の紺屋にやって来て、「お金はいくらでも出すから、この布を紺色に染めて下され。」と言い、白布を一反ずつ置いていった。
東の紺屋は「しめしめ、金は望みのままだ。」と言って喜び、西の紺屋は「よほど大事な布だろうから、丁寧に染めねば。」と考えた。ところがこの白布は、いくら一生懸命染めようとしても川で水洗いするとたちまち元の白布に戻ってしまい、どちらの紺屋もどうしても染めることが出来なかった。二人はすっかり困ってしまった。
やがて約束の日になって白髭のお爺さんがやって来た。東の紺屋は約束通り出来たと言って、水洗いせずに乾かした布を差し出した。お爺さんは、何も言わずに大金の入った箱を置いて帰っていった。西の紺屋は染められなかったことを謝ると、白布と一緒にもう一反の別の紺色の布を差し出した。お爺さんは、やっぱり何も言わずに大金を置いていった。
その夜、東の紺屋が変な物音に目を覚ますと、箱の中の大金に手足が生えてみんな小さなゼニガメになっていた。ゾロゾロ箱から逃げ出したゼニガメを東の紺屋が追いかけていくと、川の中からあの白髭のお爺さんがゼニガメ達に手招きしていた。
お爺さんはその川の水神さまだったのだ。それ以来川の東側はゼニガメのために水が濁り、良い染め物が出来なくなってしまったが、西の紺屋は水神さまからもらった金で益々大きな紺屋になって繁盛したという。
(引用:狢工房サイト)
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 寺沢正美(未来社刊)より |
出典詳細 | 三河の民話(日本の民話65),寺沢正美,未来社,1978年04月10日,原題「紺屋とゼニガメ」,採録地「豊田市」,採集「永井公博」 |
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