昔、備中の吉川という村で、立派な八幡さまを建てようと、その頃有名だった「飛騨の匠」に建設を依頼しました。
やがて飛騨の匠が弟子を一人だけ連れて、吉川の村にやってきました。村人たちは「弟子一人でお宮が建つのだろうか?」と心配しましたが、そんな心配をよそに飛騨の匠は小さな木の切れ端を作業小屋に運び入れました。
匠は木の切れ端にのみを打ち込み、何やら作っているようでした。しかし翌日になると、小屋からは何やらにぎやかにのこぎりの音やのみの音とかの作業音が聞こえてきました。
村人たちが小屋の中を覗いてみると、見たこともない小僧さんがものすごい速さで仕事をしていました。この不思議な小僧さんは、目や口がちっとも動かないものだから、村人たちは恐れおののき小屋に近づきませんでした。
こうしてびっくりするほどの速さで仕事が進み、とうとう7日目には立派なお宮が出来上がりました。その時にはもう匠の姿はなく、木彫りの人形が入った白木の箱が残されていました。
木彫りの人形は、小屋の中で仕事をしていた不思議な小僧さんでした。飛騨の匠は、人形を作ってそれに仕事をさせていたのです。村人たちは、箱に厳重に釘を打ち付けて、お宮の奥に丁寧に納めました。
それ以来、誰もこの箱の中を見たものはなく、誰いうとなく「開かずの箱」というようになりました。
(紅子 2014-1-19)
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 岡山の伝説(角川書店刊)より |
出典詳細 | 岡山の伝説(日本の伝説29),水藤春夫,角川書店,1978年4年10日,原題「開かずの箱」 |
場所について | 吉川八幡宮(開かずの箱を安置) |
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