昔、和歌山の広村に儀兵衛(ぎへい)という男が住んでいました。生来の恥ずかしがり屋のため30歳すぎても独身でしたが、隣に住む綾(あや)さんが大好きでした。
ある夏の夕暮れ、その日は村祭りで、綾さんと婆さんが神社に出かけていきました。儀兵衛もワクワクしながら小ざっぱりした着物に着替えていた時、突然グラグラと長い横揺れが起こりました。儀兵衛は「長い地震の後には津波が来る」と村の古老から聞いたことを思い出し、海を見ました。
すると、海の水がものすごい勢いでどんどん沖に引き始めました。儀兵衛は大急ぎで松明(たいまつ)に火をつけ神社に走りましたが、津波の到達するまでにはとても間に合わないと思いました。そこで、稲刈り後の田にあった稲むらに火をつけて気づいてもらおうと考えました。
しかし儀兵衛は、他人の稲に火をつける事にためらいを感じ、自分の田んぼの稲むらに火をつけました。メラメラと燃え上がる稲むらからはモクモクと煙が上がり、祭りに夢中になっていた村人たちも気が付きました。火事を消そうと駆けつけた村人たちに、儀兵衛は「津波が来ているから山へ逃げろ」と声をかけ、婆さんを背負い綾さんと一緒に駆け出しました。
もう目の前に津波が迫ってきていました。村人たちは必死になって山を駆けのぼりました。儀兵衛たちが最後に山へ登りきった時と津波が村を飲み込んだのは、ほとんど同時でした。幸いにも村の中で誰一人死んだ者はなく、人々は村の惨状を眺めながら口々にお礼を言いました。
そのうち儀兵衛は村人と力を合わせ、高くて長い堤防を築きました。これには、妻となった綾さんも尽力しました。
(紅子 2012-1-6 0:08)
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 徳田純宏(偕成社刊)より |
出典詳細 | 和歌山県の民話(ふるさとの民話20),日本児童文学者協会,偕成社,1980年9月,原題「稲むらの火」,採録地「有田郡」,再話「徳田純宏」 |
場所について | 稲むらの火の館(和歌山の広村) |
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