昔、ある村のはずれに婆さまと娘の二人が住んでおり、二人は家の前の小さな田んぼで米を作り、細々と暮らしていた。娘は来年嫁入りすることになっていたが、一つ困ったことがあった。
それは、一人食いぶちが減るという理由で、来年から余計に年貢を納めねばならないという事だった。年貢は米五俵、実に田んぼで取れる米の半分もの量。それでも婆さまは一人で一所懸命働いた。
それから何年か経ったある夏の日、婆さまはようやく隣村に嫁いだ娘の所に遊びに行くことが出来た。婆さまは久々に娘に会え、孫の顔も見ることが出来て幸せだった。それで、もう少し年貢が軽くなれば年に数回くらい娘の家に行けるものを、と婆さまは思うのだった。
さて、娘の家からの帰り道のことだった。婆さまが山の中の道を歩いていると、何やらきれいな包みにくるまれた物が道に落ちている。近くに落とし主がいる様子もなく、婆さまは仕方なくこの包みを持ち帰り、明日にでも落とし主を探すことにした。
ところがその晩の事、婆さまが床に就くと、外ではにわかに風が吹き出した。そして、その風の音は「包み返せ、包み返せ。」と聞こえるのだった。翌朝、婆さまが起きてみれば、婆さまの家の戸に張り紙が貼ってあり、それには「昨日拾った包みを天狗岩まで届ければ良いことがある。」と書いてあるではないか。
婆さまは慌てて包みを山の奥の天狗岩の上に置いてきた。すると、またその晩に風が吹いた。そして翌朝、代官所の役人が婆さまの家に検地に訪れると、家の前には風で飛ばされて来た木の葉が積り、田んぼは見る影もない。そのおかげで婆さまは年貢を納めなくてよいことになった。そして役人が帰ると、また風が吹き田んぼは元通り。
あの包みの中身は天狗さまの羽うちわだったのだろうか?それからも役人が来る前の日には、毎年必ず風が吹いて田んぼを隠したので、おかげで婆さまは娘の家に時々遊びに行けるようになり、幸せに暮らしたということだ。
(投稿者: やっさん 投稿日時 2012-9-25 11:23)
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 寺沢正美(未来社刊)より |
出典詳細 | 三河の民話(日本の民話65),寺沢正美,未来社,1978年04月10日,原題「ばあさんの拾った包み」,採録地「岡崎市」,採集「柴田誠」 |
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