愛知県一宮市東加賀野井(ひがしかがのい)がまだ美濃国加賀野井郷(かがのいごう)だった頃。
冷たい雨の中を旅の坊さんが宿を求めて加賀井郷に辿り着いた。しかしこのみすぼらしい旅の僧を泊めようとする村人は誰一人おらず、坊さんは村外れの木曽川沿いにある生きて帰れた者がいないという古い荒寺に泊まる事になった。
荒れ果てた寺には人のいる気配が無く、薄気味悪い空気の中坊さんは本堂で夜の勤行を始めた。すると急に灯明が消え、物凄い音を立てて天井の穴から大入道が降りてきた。大入道の鼻息が首筋にかかる度坊さんは生きた心地もせず、一層声を上げお経を唱えた。
しかしその後も引き戸から、壁穴から、格子窓からと更に三人の化物が“テイテイコブシ”と呼ばれる大入道を訪ね本堂へ入ってくるので坊さんは尚も震えが止まらなかったが、化け物達の話し声からお経を上げている間は襲われない事を知ると、隙を見て態度を翻し化け物達を一喝した。
化け物達はこれに驚いて消え去り、しばらく経つと夜が明けたので坊さまが天井裏を調べてみると、大入道の着ていた衣の上に椿の古木でできた小槌があった。
テイテイコブシの正体はこの小槌が化けた妖怪であり、坊さまは村人と一緒に小槌を焼き捨てると、続けて残りの化け物の正体である蓮池の大鯉、富田山の白狐、竹藪の3本足の鶏を退治し懇ろに弔った。それ以来、この地方では椿の木で道具を作る事はしなくなったという。
(投稿者: お伽切草 投稿日時 2012-10-2 0:10 )
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 小島勝彦(未来社刊)より |
出典詳細 | 尾張の民話(日本の民話66),小島勝彦,未来社,1978年05月10日,原題「テイテイコブシ」,採録地「尾西市」,話者「渡辺洪一」,採集「小島和子」 |
場所について | 愛知県一宮市東加賀野井(地図は適当) |
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