昔、岐阜の恵那、坂下に「のう」という化け物がおった。のうは木曽川をまたいで水を飲んだというが、正体は誰も知らん。
嵐が吹き荒れる年には、村の衆はのうが暴れてるんだと言い合った。のうを鎮めるには村一番の美人を捧げねばならん。ある激しい嵐の年、村の衆はまたのうが暴れておると困っていた。だがこの村に娘は一人しか残っておらん。その子は「つゆ」というたが、色は浅黒く鼻が上を向いて、器量よしとはいえなんだ。しかしつゆは惨事を見て、自分からのうのとこに行くと言い出した。村の衆もつゆのおっかあものうが怒るんじゃないかと止めたが、つゆはむりやり一人で行ってしもうた。おっかあは泣いて見送った。
山の上でつゆが待っていると、のうが現れた。のうはつゆを気に入り喜んだ。つゆは怖くて仕方なかったが「こんなかわいくない娘を食っても美味くないやろけど、どうかあたしを食うたら暴れんようになってほしいんや」と頼んだ。のうは「お前はかわいくてええ娘じゃ。今まで何でこんなかわいい娘をくれなんだかのう」とつゆを大事そうに抱えて帰っていった。
次の日の朝、つゆと今まで捧げられた娘たちが帰ってきた。村の衆は大喜び。つゆが言うには「のうは『おまえのようなかわいいええ子が初めから来てくれりゃ、そんなに暴れることなかったに。わしはおまえのような子が好きじゃ。はよう帰っておっかさんを大事にするんじゃ』と言うたんじゃ。じゃから私はのうに今までに食うた女の子を返してけれって頼んだだ。そんで私はのうと約束した。これからはもうめちゃくちゃに暴れんようにするって」
のうはつゆの機嫌を損ねることが何より恐ろしゅうなったんじゃな、たまに顔を覗かせることがあったが、つゆが睨むとすぐにおとなしゅうなったんやと。
その後のうは大きな足跡を残してどこかへ消えてしまったんやそうや。その足跡が池になって、土地の人は「のうが池」と呼んどるそうな。
(投稿者: tsuyu 投稿日時 2012-1-29 23:37 )
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 赤座憲久(未来社刊)より |
出典詳細 | 美濃の民話 第二集(日本の民話63),赤座憲久,未来社,1977年05月01日,原題「のう」,採録地「中津川市」 |
場所について | 濃が池(恵那の坂下) |
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