昔、輪島の本郷という所に平与門(へいよもん)という爺様が息子と二人で暮していた。
ある日、庄屋さんの家で婚礼があった帰り道、平与門は息子にこう言った。「お前にもいい嫁ごをもろうてやる。」だが、そうは言ったものの、家は裕福ではなく二人が食べていくのがやっとという有様。なかなか嫁などもらえない。
そこで平与門は考えた。そうだ、飯を食わずに仕事する嫁を見つければいい。平与門はさっそく村中を歩き、飯を食わない嫁を尋ねた。しかし、そんな虫のいい話などあるはずもなく、徒に日にちだけが過ぎていった。
そんなある日、雨の中を一人の娘が平与門の家を訪ねてきた。娘は近隣の熊野の出身で、よく働き飯も食わないので、どうぞこの家の嫁にしてほしいと頼む。二人は願ったりかなったりでこの娘を嫁に迎えた。
なるほど、この娘は言葉どおりよく働き、しかも飯を1粒も食べない。最初は喜んでいた二人も、日が経つにつれてだんだん不思議に思えてきた。そこで二人は、嫁が村祭りで里帰りする時、嫁の後をこっそり尾行した。
ところが熊野に入り、なべじゃら橋を渡ったあと、嫁の姿は忽然と田んぼの中に消えた。それからしばらくすると、1枚の田んぼが光り出し、たくさんのがっと(カエル)の鳴き声が辺りに鳴り響いた。やがて楽しそうな祭りのお囃子も聞こえ出し、がっとたちが田んぼでお祭りをしているようであった。
平与門は試に田んぼに小石を投げ入れてみた。すると、今まで聞こえていたお囃子も止み、田んぼの光も消え、辺りは元の真っ暗闇にもどってしまった。
翌朝、二人が熊野から帰ってきた嫁に祭りの様子を聞くと、誰かが投げた小石が村長の頭に当り、昨日はお祭りどころではなかったと言う。そして嫁はその小石を見せた。「これは、オラが投げた小石!!お前はがっとじゃったのか!?」正体がばれた嫁は、元のカエルの姿に戻り、田んぼに帰って行った。
これに懲りた平与門と息子は、飯食わないで働く嫁など虫のいいことは考えるものでないと肝に銘じたそうな。
(投稿者: やっさん 投稿日時 2012-4-20 15:20)
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 清酒時男(未来社刊)より |
出典詳細 | 加賀・能登の民話 第二集(日本の民話58),清酒時男,未来社,1975年12月10日,原題「がっと嫁入り」,採録地「輪島市中村」,話者「平田六兵衛」 |
場所について | がっとの田んぼ(地図は適当) |
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