昔、日向国の山里に安右衛門(やすえもん)という年老いた百姓がひとりで暮らしていた。
ある吹雪の夜のこと。安右衛門の家に大きなお腹の山姥が訪ねてきて、「もうじき赤子が産まれるので、産着が無いので古着を分けてくれないか」と頼んだ。安右衛門は、亡くなった妻が着ていた着物を山姥に渡すと、山姥は礼を言い激しい吹雪の中、山へ帰って行った。
安右衛門は、山姥が寒い山の中でお産をすることが不憫に思えて、山の方角に向かって「山姥よ、家の空き小屋でお産をするがよい」声の限り叫んだ。すると翌日の夕方頃、再び山姥がやってきて安右衛門が準備していた空き小屋で出産に臨んだ。
翌朝、空き小屋から元気な産声が聞こえてきた。安右衛門は赤子の誕生を我が事のように祝福し、山姥も色々手助けしてくれたことに感謝をし、安右衛門に娘の名付け親になってほしいと頼んだ。
安右衛門は、姉の方は夏の山は緑深く美しいという意味をとって夏美(なつよし)、妹の方は秋の山は紅葉して美しいという意味をとって秋美(あきよし)にしたらどうかと山姥に提案した。山姥は大変喜び、三日ほど安右衛門の元で過ごしたのちお礼を言って娘と共に山へ帰った。
その年の夏の終わり、山姥は娘を連れて安右衛門の元へ訪ねてきた。山姥は、お産の時のお礼として、万病も寄せつけない羽衣の蚊帳(かや)を差し出した。そして、安右衛門家から見える山の木すべてをあげよう、と言った。
山姥はあの時の親切がよほど嬉しかったのか夏美を胸に抱き、秋美を負ぶって「ほーい、ほーい」と歌うように叫びながら山へ帰った。すると、山姥の叫び声に応えるように彼岸花が咲き乱れ山の木々も秋の色に染まった。安右衛門は夢見るような気持ちで山姥たちが帰った山をいつまでも眺めていた。
その後、山姥のお礼のおかげなのか安右衛門の暮らしむきは日に日に良くなり、お金持ちになった。人々は彼のことを西の長者と呼ぶようになった。
(投稿者: Kotono Rena 投稿日時 2013-6-30 19:48)
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 瀬川拓男(角川書店刊)より |
出典詳細 | 長者への夢(日本の民話05),瀬川拓男,角川書店,1973年7年25日,原題「山姥と西の長者」,伝承地「宮崎県」 |
場所について | 日向国 |
このお話の評価 | 8.69 (投票数 13) ⇒投票する |
⇒ 全スレッド一覧