昔、四国の山のそのまた山奥に「楽坊(らくぼう)」という山伏が山に篭って修行をしておりました。しかし、この楽坊は村人が見てる時だけ修行するような修行者だったので、村人は陰で笑っておりました。
ある時、村人たちが「あんざい寺の偉いお坊様が、念じるだけで火を消したり物を動かしたりするそうじゃ」と噂し合っていました。それを聞いた楽坊は、「自分にもできる。見せてやる」と見栄を張って村人達に公言しました。
村人達は楽坊を信じたわけではありませんでしたが、村はずれのお堂に集まって、楽坊の術を見せてもらうことにしました。しかし結果は、楽坊が細工をして物を動かしていたことがバレて、村人のひんしゅくをかう始末でした。
それからまた幾日かがすぎて、村人がまた集まって「あんざい寺のあの偉いお坊様は自分の死ぬ時を言い当てられ、その準備をして亡くなられた」と噂し合っていました。それを聞いた楽坊は「わしはあと七日の命だからしっかりと見届けよ」と見栄をはってしまいました。
村人は信じるつもりはありませんでしたが、これが最期の別れとなるならば世話くらいしてやろうと竹筒付きの棺桶を用意してあげました。そして、村人達は楽坊に悔いが残らないようにと交代でお世話をしてあげました。しかし、七日を過ぎても一向に死ぬ気配もなく、それどころか厚かましく飯をねだる楽坊に村人達は堪忍袋の緒が切れてしまい、ついには棺桶の竹筒を引き抜いて土をかぶせてしまいました。
村人たちに見放された楽坊は、本当に死んでしまうと慌てふためき、命からがら棺桶の中から抜け出しました。楽坊もさすがにこれには懲りて「もう人真似をするのはこりごりじゃ」とどこかへ姿を消してしまい、それ以降、誰も彼の姿を見た者はおりませんでした。
(投稿者: もみじ 投稿日時 2012-7-6 0:17 )
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 愛媛県 |
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