昔、ある村に太郎べえと次郎べえという男がいた。
ある日のこと、二人は都見物を思い立ち、二人そろって京の都に向けて旅に出た。初めて見る京の街は、何を見ても珍しく、楽しく、二人は夢中で色々な所を見物した。そして、見物も終わりに差し掛かったころ、大きな寺の境内に人だかりが出来ているのを二人は見つけた。
門の外から境内をのぞくと、お坊さんが何やら白くて丸い物を人々に配っている。どうやら人々は、これを目当てに集まっているようだ。この坊さまが配っている物は、当時まだ都でも珍しい、唐渡りの饅頭(まんじゅう)という物であった。
二人が境内をのぞいていると、坊さまがやって来て、二人にも饅頭を一つずつ分けてくれた。ところが二人は、これが何であるか知る由もない。太郎べえは言う。「何かの卵だべか?」すると次郎べえは答える。「オラわかっただ!これはきっと極楽にいる天女の卵だべ!」饅頭を天女の卵だと思った二人は、温めれば中から天女が生まれると思い、さっそく饅頭を懐に入れて温めた。
こうして二人は期待に胸を膨らませながら帰路に着いた。ところが次の日、懐の“卵”から変な臭いがする。二人が取り出してみると、何と天女の卵の表面には青い斑点が現れ、何やら毛のようなものも生えている。こんなに臭くて、毛が生えた物が天女の卵であるはずがない。「これは、青鬼の卵じゃ!この青いボツボツがその証拠じゃ!」
鬼に食われては大変と、二人は卵を踏み潰してしまった。やれやれ、もう少しで卵から鬼が生まれるところだった。でも、これもいい土産話になる。二人は災難を避けたことを喜び合いながら、鬼の卵の話を土産に国に帰っていったそうじゃ。
(投稿者: やっさん 投稿日時 2012-9-30 11:55)
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 岸なみ(偕成社刊)より |
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