むかしむかし、美作の辺りにあまんじゃくが住んでおって、悪戯をしては村人達の手を焼かせておった。あまんじゃくは山の中に一人で住んでおったからな。それで寂しくて悪さしちゃあ喜んでおったんじゃ。
ある日、鎮守さんの森でおなごが柴を拾っておると、気味の悪い笑い声が聞こえてきた。おなごは驚いたが、よく見ると、あまんじゃくが木々の間を駆け回って笑っておるのが見えた。おなごは知らんふりをして家に帰ったが、あまんじゃくはおなごが可愛いもんで悪戯しちゃろうと思うてな、おなごの家までこっそりついて行ったそうな。
やがて夜になると、おなごは庭に出て、空に向かって今日の出来事を話し始めた。おなごは亡くなった両親が星になって空におると思っておったでなあ。それを見たあまんじゃくは、大急ぎでこの辺りで一番高い二上山(ふたかみやま)に登った。天辺に着くと、そりゃあもう星は手を伸ばせば届きそうなくらい一杯に輝いておった。あまんじゃくは、おなごが好きな星を全部取って意地悪してやろうと考えたんじゃ。
あまんじゃくは空に向かって飛び上がってみたが、どうにも星まで手が届かん。そこで次に、ほうき草で長い箒を作って振り回したが、それでも星には届かんかった。そこであまんじゃくは、ありとあらゆる大きな石を集めてきて、恐ろしいほど高い石の塔を積み上げた。
あまんじゃくは石の塔に登って箒を振り回したが、それでもまだ星には届かんかった。そのうち東の空が明るくなり、星はゆっくりと消え始めた。あまんじゃくは慌てて箒を振り回したり飛び上がったりしたが、どうにも星には届かんかった。それどころかあんまり飛び跳ねたので、とうとう石の塔が崩れ落ちて、あまんじゃくは真っ逆さまに落ちてしもうた。
それからというもの、あまんじゃくは毎晩星取りに夢中になって、村に悪さをしに降りて来なくなったそうな。そうして、二上山の天辺から谷底までゴロゴロしておる石は、皆あまんじゃくが転がした石じゃということじゃ。
(投稿者: ニャコディ 投稿日時 2013-6-29 14:51 )
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 瀬川拓男(角川書店刊)より |
出典詳細 | 自然の精霊(日本の民話02),瀬川拓男,角川書店,1973年8年23日,原題「美作のあまんじゃく」,伝承地「岡山県」 |
場所について | 二上山(岡山県久米郡美咲町) |
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