昔、ある山里に、妻も子供にも先立たれた一人暮らしの貧乏な爺さんがいました。爺さんは毎日二人のお墓にお参りすることだけが楽しみでした。
やがて冬になり、村はすっぽりと深い雪に埋もれ、爺さんもじっと家の中に閉じこもっていました。節分の日、寂しさに耐えられず、爺さんは雪に埋まりながら二人の墓参りに出かけました。村のどの家からも「鬼は外ー、福は内ー」と楽しそうな家族の声が聞こえてきました。爺さんはしみじみ一人ぼっちが身に染みて、涙があふれて止まりませんでした。
墓参りから帰った爺さんは、息子が生きていた頃に作ってくれた鬼のお面を取り出して、昔の楽しかった時を思い出していました。「妻も子供ももういない、ましてや福の神からはとっくに見放されている…」そう思った爺さんは、鬼の面をかぶり、わざとあべこべに叫びながら豆をまき始めました。「鬼は内ー!福は外ー!」
すると、爺さんの家に誰かが訪ねてきました。それは、節分の豆に追われた鬼たちでした。この家に客人とは何年ぶりでしょう、たとえ鬼でも爺さんは嬉しくなりました。鬼たちはみんな爺さんの家に集まり、持ってきた甘酒やらご馳走やらで大宴会が始まりました。やがて朝になると、鬼たちは「来年も来るから」と上機嫌で帰って行きました。
やがて春になった頃、爺さんは鬼の置いて行ったお金で二人の墓を立派に作り直しました。そして「おら、もう少し長生きすることにしただ。来年も鬼を呼ばないといけないからなぁ」と晴れ晴れした顔で言いました。
(紅子 2012-1-7 1:32)
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 岩手県 |
DVD情報 | DVD-BOX第5集(DVD第21巻) |
本の情報 | 講談社デラックス版まんが日本昔ばなし第24巻(絵本発刊日:1985年02月15日)/講談社テレビ名作えほん第094巻(発刊日:1988年2月) |
絵本の解説 | 鬼は昔ばなしの人気者で、たびたび登場しますが、恐ろしいだけでなく、おかしみもあるのが身上です。ひとりぼっちで寂しく暮らしていたお爺さんが、ある節分の日に「鬼は内、福は外」と豆をまくと、よその家で豆をぶつけられた鬼たちが喜んでやってきて、その晩はにぎやかな酒盛りとなりました。強そうにみえる鬼も、嫌われるのは悲しいのです。そして、お爺さんも一人ぼっちは死ぬほどつらかったのです。久しぶりに鬼をお客に迎えたお爺さんは、生きる意欲を取り戻しました。仲間がいるという事は、なんと素晴らしいのでしょう。(岩手地方のお話)(講談社のデラックス版絵本より) |
講談社の300より | 書籍によると「岩手県のお話」 |
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