昔、ある山里に川を挟んで作じいと徳じいという仲の良い爺さまが住んでいた。
季節は春。二人の爺さまは畑に豆を蒔いていたが、鳩が来ては蒔いた豆を食べてしまうのでたいそう困っていた。
そんなある雨の日のこと、作じいは徳じいの家に来てこんなことを話した。「鳩は人間の言葉わかるんやないやろか?」作じいが言うには、いつも自分たち二人が川を挟んで大声で話しているものだから、鳩はこれを聞いて豆を蒔いたとわかるのだろうということだった。ところが徳じいは、「アホらしい、鳩に人間の言葉わかる訳ないやろ。」と言って取り合う気もないようだ。
それから数日が経ち、徳じいが畑に出ると、作じいも川向かいの畑に出ていた。ところが今日の作じいはどうも様子がおかしい。しきりに上の方を見ながら黙々と何かを植えているようだった。いつのもように徳じいが呼びかけても、それに答える様子もない。
いったい何を植えているのか、いくら呼びかけてみてもいっこうに答えないので、しびれを切らせた徳じいは、作じいの所に走って行った。すると作じいは、「シーッ」と口に手あて、耳をかすように徳じいに言う。作じいは徳じいの耳元で、内緒話でもするように豆を植えていると言う。
そう、作じいは豆を植えていたのだが、鳩に聞かれないよう黙って植えていたのだ。「シーッ、鳩は豆が好きなんやで。鳩は聞いてんのや。」
豆を植える百姓と、それを狙う鳩とのやり取りはまだまだ続きそうだ。
(投稿者: やっさん 投稿日時 2012-9-16 18:12)
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 宮脇紀雄(偕成社刊)より |
このお話の評価 | 8.33 (投票数 3) ⇒投票する |
⇒ 全スレッド一覧