むかしむかし、『たのきゅう』という旅芝居の役者がおりました。
ところがある時、母親が病気になったので、たのきゅうは急いで故郷に帰ることになりました。途中、山の麓の茶屋で「夜の山にはウワバミが出て人間を喰ってしまう」という話を聞きましたが、先を急ぐたのきゅうは構わず歩き続けました。
暗い月影、寂しい山道。たのきゅうがびくびくしながら夜の山道を歩いて行くと、怪しい大男が現れました。大男がお前は何者かと聞くので、「た、た、たのきゅう…」と答えると、耳が遠いらしい大男は『たぬき』と聞き間違えて、女に化けて見せろといいだしました。
たのきゅうは大男を後ろ向きにさせ、その隙に芝居の道具を使って女に変装しました。さすがたのきゅうは役者でした。大男はたのきゅうが変装した女にすっかり喜んで「実は儂も化けておるんじゃ。」と、みるみる大きなウワバミに変わりました。
たのきゅうは震えあがり、気を紛らわすために思わず煙草に手を伸ばしました。するとウワバミは驚いて「やめてくれ、わしは煙草の煙が苦手なんじゃ!」と叫びました。そしてもしこのことを人間に漏らせば、お前を締め上げると言いました。ここでたのきゅうは頭を働かせ、自分は締め上げられるより「お金」が大の苦手じゃと答えて、山を降りました。
たのきゅうは、早速この話を麓の村の人達に教えてやりました。すると、日頃からウワバミに苦しめられている村人達は、手に手に煙草を持って、ぷかぷかどんどん、ウワバミ退治に出かけました。煙草の煙に燻されて、さすがのウワバミもフラフラになってしまいました。
怒ったウワバミは最後の力を振り絞り、たのきゅうの家までやってきました。そうして天窓から家の中を覗き込み「たぬき、これでも喰らえ!」と言い、口から小判をざらざらと吐き出しました。「助けて~苦しい~」と小判にまみれながら苦しんでいたたのきゅう、「ざまあみろ!」と捨て台詞を残してウワバミが去ったとたん、にんまりと笑いましたとさ。
(投稿者: ニャコディ 投稿日時 2013-9-17 23:05 )
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | (表記なし) |
備考 | 漢字で書くと、田野久 |
VHS情報 | VHS-BOX第1集(VHS第2巻) |
本の情報 | サラ文庫まんが日本昔ばなし第4巻-第019話(発刊日:1976年7月20日)/童音社BOX絵本_第35巻(発刊日不明:1970~1980年頃)/国際情報社BOX絵本パート1-第038巻(発刊日:1980年かも)/二見書房まんが日本昔ばなし第2巻-第07話(発刊日:2005年10月17日)/講談社デラックス版まんが日本昔ばなし第33巻(絵本発刊日:1985年07月15日)/講談社テレビ名作えほん第025巻(発刊日:1978年4月) |
サラ文庫の絵本より | 絵本巻頭の解説には地名の明記はない |
童音社の絵本より | 絵本巻頭の解説(民話研究家 萩坂昇)によると「山梨県の昔ばなし」 |
講談社のデラックス版絵本より | “たのきゅう”という名の役者のとんち話で、落語にもとりあげられているお話です。うわばみが“たのきゅう”を“たぬき”と勘違いするのが、そもそもの発端。ここからもう、おかしみがこみあげてきますね。たのきゅうはうわばみの変身要求に、役者の衣装をつぎつぎ着かえて早変わりをしてみせ、さらに頭をはたらかせてまんまと小判をせしめてしまいます。たのきゅうに庶民のしぶとさ、たくましさを感じるとともに、自分の弱点をぽろっともらしてしまううわばみに、恐ろしさよりは人の良さを感じて、親しみがわいてきます。(徳島地方の昔ばなし) |
講談社の300より | 書籍には地名の明記はない |
レコードの解説より | LPレコードの解説によると「徳島地方の昔ばなし」 |
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