昔、三河国の田代川を挟んで、三栗ノ谷(みぐりのたに)と川下ノ谷(かわしものたに)に、鬼の一家が住んでいた。
三栗の鬼と川下の鬼の一家は大変仲が悪く、いつも大きな岩を投げ合う喧嘩ばかりしていた。ところがある日、三栗の鬼の一人娘が川下の鬼の一人息子を好きになり、そのうち娘の腹が大きくなった。両家の鬼は、仕方なく結婚を認めてやり、やがて子供が生まれた。
しばらくして、大変な干ばつが起こり、田畑の作物は枯れ食べるものがなくなり、孫が病気になった。かわいい孫をどうにか助けてやろうと、三栗の鬼は祈祷師に拝んでもらった。祈祷師が「信州の伊那八幡の弁天様の水を飲ませれば孫は助かる」と言うので、さっそく三栗の鬼は伊那八幡まで走った。走り疲れた鬼の前に、弁天様が現れ「岩を掘って湧水を飲ませれば、孫は助かる。ただし道具を使ってはならない」と告げた。
急いで帰った三栗の鬼は、真言(マントラ)を唱えながら、素手で岩を掘り始めた。「おんぼろだやそわか、おんぼろだやそわか、おんぼろだやそわか、おんぼろだやそわか」爪は剥がれ肉はちぎれ白い骨が見えても、ガリガリと音を立てながら夜も昼も掘り続けた。
ようやく岩にくぼみができ、とうとう岩の穴から水が湧いてきた。三栗の鬼が、岩の井戸水をお椀に汲んで孫に飲ませると、すっかり元気を取り戻した。それからの両家の鬼たちは、仲も良くなり、湧水により畑も潤い、息子たちはめでたく結婚式を挙げた。
(紅子 2011-7-26 20:00)
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 寺沢正美(未来社刊)より |
出典詳細 | 三河の民話(日本の民話65),寺沢正美,未来社,1978年04月10日,原題「田代川の鬼」,採録地「西加茂郡」,話者「後藤すえ、愛知県伝説集」 |
場所について | 三河国の田代川(地図は適当) |
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