昔、ある山里にタロという子どもがおりました。
タロは、わがままで大食らいのうえに、食べたらすぐに大いびきをかいて寝てしまうような怠け者でした。女手一つで必死に育てたが、食べるだけ食べてちっとも働こうとしない息子をみて、母の目にも涙が浮かぶのでした。
ある時、タロは朝早くから母親にくっついて裏山の芝刈りにでかけました。と言っても、手伝うためではありません。母親が用意した昼飯が目当てでした。仕事もしないうちから「腹が減った、腹が減った」とだだをこねるタロに、母親はなんとか仕事をさせようとしましたが、タロの頭の中はご飯のことばかり。ろくに手伝いもしません。そして、あまりにだだをこね続けたのでとうとう母親もおれて、昼前に昼ごはんにしました。
母親は食べたら仕事を手伝ってくれると期待しましたが、タロは昼飯の大半を平らげたにもかかわらず、食べたらすぐに横になってしまいました。母親は「食べて すぐ寝たら牛になるよ!」と怒りましたが、タロは「牛になっても構わんよ、おらは眠いんじゃ」と言って寝てしまいました。
どれくらい経った頃でしょうか、「起きんか!」と言う声ともに叩かれたタロはびっくりして目を覚ましました。目の前には毛むくじゃらの山男が細い竹のムチをもって立っていました。しかも、タロは牛になっていて、沢山の丸太がのったソリに繋がれているのです。
状況が飲み込めないまま、タロは山男に叩きに叩かれ、ソリを引っ張らされました。母親に助けを求めようにも自分の声は「モー」という牛の鳴き声にしかなりません。いくつもの山を超えさせられ、へとへとになったタロは気を失ってしまいました。
どれほど経った頃か、タロは母親の優しい声に起こされて目を覚ましました。タロの姿は元の人間に戻っていて、自分の家の前でした。夢でも見たのだろうかと今の出来事を母親に話して聞かせると、「山の神様がお前を懲らしめたんだろう」と言って、「あれはお前が全部運んできたんだよ」と褒めました。みると、夢の中で運んだと思っていた丸太の山とソリが家の前に。けれど、山男の姿はどこにもありませんでした。
こんな事があってから、タロは大食らいは相変わらずでしたが、人が変わったようによく働くようになったということです。
(投稿者: もみじ 投稿日時 2013-1-9 16:44)
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | クレジット不明 |
出典詳細 | 三河の民話(寺沢正美,未来社)かもしれない |
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