昔、弥兵衛という大変世話好きの男がおりました。
どれぐらい世話好きかというと、一晩とめた旅の商人が忘れた財布を届けるために三日も追いかけて渡すほどでした。こんな世話好きの男ですから、自然と村人が野良仕事の帰りに家によってお茶をもらったりしてゆっくりして行くようになりました。
ある夏の晩、夜も更けた頃にみすぼらしい身なりをした旅の老僧がやってきました。「どうか一晩、土間でもいいので泊めて欲しい」という老僧を可哀想に思った弥兵衛は風呂を沸かして老僧にすすめ、妻を起こして料理を振舞って丁寧にもてなしました。
次の朝、老僧は旅立つ時にお礼にと大切にしていた古い掛け軸を弥兵衛に手渡しました。開けてみるとそれは美しい観音様の絵が描かれていました。
夜、祭りの世話役の寄り合いをするため村の世話役が弥兵衛の家に集まりました。暑い夜だったので酒を振舞った弥兵衛でしたが、自分たちが飲む前にと観音様に御酒をお供えしました。
しばらく経った頃、みんなお酒がまわってどんちゃん騒ぎになりましたが、ふと一人が観音様のお酒をみると空になっています。おかしいと思って注いだところ、 またしばらく経つと空になっていました。誰が観音様のお酒を飲んだんだと言い合って、観音様を見てみると、なんと観音様の顔がほんのり赤く染まっていました。
「観音様がお酒を飲まれたのか」
この話が伝わって、前より多くの人が弥兵衛の家に集まるようになりました。「きっと弥兵衛の世話好きをみて観音様もお世話してもらいたい気になったに違いない」村人はそう言って、このお酒を飲む観音様をいつしか「御酒観音(おみきかんのん)」と 呼ぶようになりました。また、この御酒観音にお酒をお供えして分けてもらうと幸せになれるということです。
(投稿者: もみじ 投稿日時 2013-1-8 21:55 )
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 三重県 |
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