昔、岩手の北上川の上流に光勝寺(こうしょうじ)というお寺があって、立派な和尚が住んでいました。中でも、母親と二人暮らしの幼い「おさと」は、とても和尚になついていました。
ある年の春、おさとと母親が裏山へワラビ採りに入った時の事。おさとは山の中で母親とはぐれてしまい、ひとり沼のほとりでしくしく泣いていました。すると、一人の若い男が声をかけてきて、「母親のところへ連れて行ってあげる」と、おさとの手を引いてくれました。
二人は仲よく野原を歩き、やがて母親の近くまでやって来ました。おもわず走り出そうとしたおさとに、若い男は「もう少しだけ、一緒にいてくれないか」と、悲しげな顔で引き止めました。
若い男が「なんて可愛いんだろう」と呟いた瞬間、おさとの悲鳴が響きました。おさとの悲鳴を聞いて駆け付けた母親の目の前には、大きな蛇が林の間を去っていく姿がありました。若い男は沼に住む大蛇の化身で、あまりの可愛さにおさとを飲み込んでしまったのです。
この話を聞いた和尚は、大いに悲しみ大いに怒りました。和尚は大蛇退治のため護摩壇 (ごまだん)を作り、断食して七日間の祈祷に入りました。和尚の激しい祈祷に大蛇は苦しみ、6日目の夜に再び若い男の姿になって、和尚のところへ命乞いに訪れました。
しかし和尚は「すぐに沼から立ち去れ」と大蛇を追い払い、護摩壇に向かって祈祷をつづけました。大蛇は苦しみながら、沼から抜け出て北上川へと逃げていきました。すっかり弱っていた大蛇はどんどん下流に流され、黒岩の里まで流されてきました。
大蛇は、やっぱり長年住み慣れた沼に帰りたいと思い、ヌッと首をもたげて振り返ったとたん、大蛇の体は固まりそのまま石になってしまいました。今でも北上川に、この石は残っているそうです。
(紅子 2012-9-26 0:53)
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 岩手県 |
場所について | 光勝寺 |
本の情報 | 二見書房[怪談シリーズ]第3巻_妖怪がでるぞ~(発刊日:1994年7月25日) |
講談社の300より | 書籍によると「岩手県のお話」 |
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