むかし、富山県平村の横びらと言う所に、1本松が立っていて、この木には酒の大好きな天狗さまが住んでいた。この天狗さま、酒を持った人が通りかかると、「おい、わしじゃ、わしじゃ。」と声をかけて、逃げる通行人から酒を奪ってしまうのだ。
ある年の春、町の酒屋に出稼ぎに行っていた甚兵衛(じんべえ)という男が、この1本松の下を通りかかった。甚兵衛は半年の仕事を終え、家で1人待つ親父さまのお土産に、4斗樽(よんとだる)の酒を背負って村に帰って来たのだ。
天狗さまは、「おい、わしじゃ、わしじゃ。酒をくれや。」と言って、木から下りてきた。甚兵衛は逃げもせず、「へい、どうぞ召し上がって下せえ。」と酒を差し出す。こうして天狗さまは、甚兵衛の差し出す酒を3斗9升7合飲み、樽の中には3合を残すのみになってしまった。ところが、甚兵衛が家のそばに来ると、急に樽が重くなった。調べてみれば、何と3合の酒は4斗に戻っているではないか。これには、甚兵衛の親父さまもたいそう喜んだ。
ところで、この年の夏はひどい日照りが続き、食べるものがすっかり無くなってしまった。甚兵衛の親父さまも日に日にやつれていく。甚兵衛が困っていると、そこへ天狗さまが飛んで来て、こないだ世話になったお礼に米を持ってきたと言うのだ。甚兵衛が釜を差し出すと、天狗さまは釜の中に米粒をたった3粒だけ落として帰って行ってしまった。
たった3粒とは?といぶかりながらも甚兵衛がその米を炊けば、なんと、米は釜いっぱいになったのだ。しかも、不思議なことに、その米は食べても食べても無くならないのだ。これを見た親父さま、「天狗さまは、3という数字に縁がふかいのぉ。」と言うのだった。
さて、甚兵衛は、今度は親父さまに魚を食べさせてあげようと、天狗さまのくれた米で握り飯を作り、川に釣りに出かけた。ところが甚兵衛が歩いていると、茂みの中から大蛇が現れた。甚兵衛は必死に逃げるも、がけの上に追いつめられてしまう。そして絶体絶命という時に、持ってきた握り飯が3つに増え、そのうち1つが、ひとりでに大蛇の口に転がっていった。
すると、握り飯を食べた大蛇は、酒に酔ったようにうっとりとなった。甚兵衛がもう1つ投げてみると、大蛇はそれを食べてクネクネ踊り出した。そして、最後の1つを食べると、もう完全に酔っ払い、自分から谷底に落ちていった。こうして甚兵衛は、天狗さまのくれたお米のおかげで、またも命びろいした。
さて、季節は巡り冬となり、甚兵衛はまた町に出稼ぎに行かねばならなかった。甚兵衛が横びらの1本松の所まで来ると、天狗さまは旅支度をしている。天狗さまはよそに行くと言い、お別れに甚兵衛に金の粒を3粒くれたのだ。
不思議なことに、この金の粒は、甚兵衛の財布の中でいくらでも増え、おかげで甚兵衛は出稼ぎに行かなくてもよくなった。それからも甚兵衛は3という数を大切にした。嫁さまをもらって親父さまと3人暮らしにして、子供も3人もうけて、末永く幸せに暮らしたということだ。
(投稿者: やっさん 投稿日時 12-28-2011 17:48)
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 富山県平村 |
DVD情報 | DVD-BOX第6集(DVD第30巻) |
場所について | 南砺市の東赤尾字横平(地図は適当) |
本の情報 | 国際情報社BOX絵本パート2-第090巻(発刊日:1980年かも)/講談社テレビ名作えほん第069巻(発刊日:1987年1月) |
講談社の300より | 書籍によると「富山県のお話」 |
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