大分の民話 第二集(未来社,1976年05月15日)に、同タイトル名のお話があり「このお話かもしれない」ということであらすじを書いてみます。
ある町に、たいそう繁盛している宿屋があった。そこの女中に、両親を亡くした初という娘がいた。お初は気立てがよく、働き者だったので、主人夫婦からもかわいがられ、ゆくゆくは息子の嫁にと考えるほどであった。
そのお初が十七八になった頃、よくない噂が立ち始めた。お初が時々夜中に部屋を抜け出すというものだった。若旦那は真偽を確かめるべく、女中頭に動向を探らせた。そんなある夏のこと、大勢の客で店が大忙しとなり、皆が疲れ寝静まった晩、お初は風呂敷に何かを包むと、こっそりと部屋を抜け出した。それを女中頭が若旦那に告げると、若旦那もこっそりと後をつけた。
お初は町はずれを過ぎて山の中へ入っていき、若旦那は「これは誰かと逢引きに違いねぇ」と暗い妄念に囚われた。そして、山の上で追いついた若旦那は、お初に「何しにこげな山ん中まで来た。その手に持っちょる物を見しい」と言うと、お初は「見せられん」と拒んだ。これを見た若旦那は店から何かを持ち出したに違いないと頭に血が上り、お初に執拗に迫った。
「見しい!」
「見せられん!」
そうこうするうちに揉みあいとなり、揉みあううちにお初は山の上の崖から足を踏み外し、深い谷底へと転落していった。若旦那は色を失って家へと駆け戻り、両親に一部始終を話すと、お初を探しに一緒に山へと戻った。
夜明けを待って、谷底に降りると、お初は岩に体を打ち砕かれ、すでに事切れていた。そのお初が胸に抱き抱えていた荷物を見ると、それは重箱に詰められた昨夜の客の食べ残しだった。そして、お初と争った山の上の辺りを調べてみると、小さな祠があり、そこにも同様の食べ残しが供えてあった。お初は亡き父母の菩提を弔うために、この祠に詣でていたことが分かった。
「お初、すまん。そうとも知らず、わしが疑ったばかりに…」若旦那は声を上げて泣いた。その後、この山中にお初を本尊とする観音堂が建てられ、頭を丸めた若旦那がお初の冥福を祈って、日夜、読経に明け暮れる姿が見られたという。
(投稿者: araya 投稿日時 2012年1月24日 1:02 )
※大阪の「お初天神」の可能性もありますが、安倍清明の「信太狐」など、浄瑠璃や文楽といった文芸作品がある伝説はほとんど取り上げられてないことから、同名タイトルのこの話の可能性が高いということで紹介します。採録地は杵築市。舞台は調査中。たぶん、物語の詳細性から見て、お初観音自体は実在するんでしょうけど、ちょっと見当たらずです( ̄∀ ̄)。
ナレーション | 未見のため不明 |
出典 | クレジット不明 |
出典詳細 | 大分の民話 第二集(土屋北彦,未来社,1976年05月15日)かもしれない、採録地は杵築市。 |
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