昔、三河国の西尾というところに殿様が住んでいた。この殿様は人は良いのですが、藩のことなど家来に任せっきりで、村の人々の暮らしなど全く知らなかった。
ある日のこと、殿様は馬に乗って岡崎城に向かっていた時のことだった。坂左右村(さかそうむら)の入口で、何の前ぶれもなく落馬してしまった。その帰り道でも殿様は同じ場所で落馬してしまった。
殿様は気の緩みから落馬したのだろうと思い、気を付けようと思ったのだが、翌年の岡崎城への年賀の挨拶へ行く時も、その帰り道でも殿様がどんなに気を引き締めても、坂左右村の入口でなぜか落馬するのだった。村人たちは落馬した殿様のことを『すっとんころりのお殿様』と言っては、陰で冷笑した。
そのまた翌年の岡崎城への年賀の挨拶に行く時、殿様はいつも落馬する場所を馬で早く駆けようとしたが、またまた落馬してしまった。陰で冷笑していた村人たちも、なぜ殿様は同じ場所で何度も落馬するのか、可笑しさを通り越して不思議に思うのだった。
殿様が岡崎城での年賀の挨拶を終え城を出る頃、雪がたくさん積もっていた。殿様は雪道を慎重に馬を進めていったが、やっぱり同じ所で落馬してしまうのだった。
その時、殿様が落ちたところだけ雪が溶けはじめた。不思議に思った殿様は村人たちを呼んで、そこを掘らせると金色に輝く仏像が出てきた。殿様は仏像の上を通ったから何度も落馬したのだった。この時、殿様は「今まで自分は藩主にも拘わらず、馬で通り過ぎるだけで村人たちの暮らしを顧みないので、仏像が出てきたのだろう」と考えた。
殿様は名主に御堂を建てて仏像を祀るように頼んだ。その後、坂左右村の入口に村人たちの手によって仏像の為の御堂が建てられ、殿様は坂左右村の入口を通る際には、馬から降りて御堂にお参りしてから出かけるようになった。そして村人たちの生活をつぶさに見るようになった。
(投稿者: Kotono Rena 投稿日時 2013-8-17 21:50)
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 寺沢正美(未来社刊)より |
出典詳細 | 三河の民話(日本の民話65),寺沢正美,未来社,1978年04月10日,原題「すっとんころりのおとの様」,採録地「岡崎市」,採集「鈴木幸二」 |
場所について | 三河国の西尾城 |
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