昔、岡山県都窪郡庄村に、冬でも汗をかく不思議なお地蔵さまがいた。
ある年、備中一帯はひどい日照りに見舞われ、田畑もすっかり干上がってしまい、食べるものも困るありさまだった。そんな時、信心深いお婆さんが汗かき地蔵さまの声を聞いた。「わしの体を2ヵ所削って、井戸とため池に入れてくれ」
お婆さんは躊躇したが、お地蔵さんの足元から小さいカケラを削り取り、干からびた井戸とため池に入れた。すると中から大量の水があふれ出て、枯れた田にも水を引く事ができ、日照りから村は救われた。
次の年の春、撫川の戸川肥後守安宣(なつかわのとがわひごのかみやすのぶ)という殿様が、汗をかくお地蔵さまの噂を聞いた。その不思議なお地蔵さまを使って、勝手に水があふれ出る「手洗い鉢」を作ろうと思いついた。村人の必死の抵抗むなしく、お地蔵さまは殿様の家来たちに強奪され、首を切り落とし体をくりぬかれた。
ご満悦の殿様は、この手洗い鉢を諸国の大名たちに見せびらかそうと、千石船に乗せて江戸へ出発した。しかし殿様の乗った船は、玉島の港を出発し遠州灘に差し掛かった辺りで、大波にのまれて沈んでしまった。
首だけ残ったお地蔵さまは「首切り地蔵」と呼ばれ、後に殿様の子孫がお詫びのために設置した「ことわり地蔵(身代わり地蔵)」とともに、ひっそりと村の暮らしを見守っている。
(紅子 2011-10-23 3:28)
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 稲田浩二(未来社刊)より |
出典詳細 | 岡山の民話(日本の民話36),稲田浩二,未来社,1964年03月15日,原題「首切り地蔵」,採録地「都窪郡庄村」,話者「吉田謙三、矢尾孝治」,採集「稲田浩二」 |
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場所について | 首切り地蔵(今も健在、2011年) |
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