むかし、徳島県の脇町猪尻(いのしり)の墓場では、狸達が悪さをしとったそうな。それで村人達は狸を退治しようと話し合ったが、なかなか名乗りをあげる者はおらんかった。とうとう「よし、わしが行っちゃろう!」と、平八という若者が名乗りをあげた。
平八はナタを一本持って出かけて行った。そうして墓場に着くと、平八は大きな木の上に登って様子を見ることにした。すると、「平八のおっ母さん(おっかさん)が病気になってしもうたぞ~!」と言いながら、隣の親父さんが現れた。平八は、これはもしかしたら狸かもしれんと思い、木から降りていかんかったそうな。
しばらくすると、今度は隣の親父さんと平八の弟が現れて、「おっ母さんが亡くなったぞ~!」と言う。じゃが平八は、これも狸かもしれんと思い、木から降りていかんかったそうな。またしばらくして、今度は葬式の行列が木の下にやって来た。人々は木の下に平八のおっ母さんの死骸を埋め、帰って行った。平八はこの時初めて、おっ母さんは本当に急な病で死んだんじゃないかと思うた。
すると真新しい墓の土がぼこぼこと動き、土の中からおっ母さんの幽霊が現れた。平八は、これはもう狸に間違いないと、ナタを幽霊に投げつけた。ナタは幽霊にあたって、幽霊は倒れてしもうた。じゃが、狸のはずの幽霊は、いつまでたっても尻尾を出さんかった。平八は驚いて、今度こそ本当におっ母さんをやってしまったと思うた。平八は慌てて木から降り、「狸じゃと思うたんじゃよ、おっ母さん…!」と、おっ母さんの幽霊の傍で泣き崩れた。
や がて最明寺(さいみょうじ)の鐘が鳴り夜が明ける頃、平八のおっ母さんが心配してやって来た。墓場の木の下では、平八が大きな古狸を抱いたまま、泣き疲れ て眠っておった。おっ母さんの幽霊はやっぱり狸じゃったのじゃ。それはもう、見たこともない真っ白い毛をした古狸じゃった。
やがて目を覚ました古狸は村人達に謝り、脇町の狸は親分がやられてしもうたので、その後大人しゅうなったそうな。
(投稿者: ニャコディ 投稿日時 2013-2-11 13:00)
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 湯浅良幸(未来社刊)より |
出典詳細 | 阿波の民話 第一集(日本の民話08),湯浅良幸、緒方啓郎,未来社,1958年06月15日,原題「狸とゆうれん」,採録地「美馬郡」,話者「笠井新也」 |
場所について | 美馬市脇町大字猪尻(地図は適当) |
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