昔、福岡の宗像(むなかた)は、美しい山と豊かな田畑に囲まれた静かな里だった。
ところがある年の夏、日照りが続いたため、田畑はカラカラに乾き、作物はみな枯れてしまった。村人は困り果てたが、ただぼんやりしていてもしょうがないと、村一番の年寄りの太助爺さんの呼びかけで、雨乞いをすることになった。
村人は、昼夜を問わず毎日雨乞いをした。しかし、雨は一向に降る気配を見せない。とうとう村人はあきらめて、村を捨てて他所へ移る準備を始めた。ところが、人一倍村に愛着がある太助爺さんは、人々が村を捨てるのを黙って見てはいられない。子供の頃に噂に聞いた、山奥の泉を探すと言い出したのだ。
こうして爺さまは、強い日差しの照りつける中、一人で山の泉を探しに行った。野を越え山を越え、山の奥へ進んで行く爺さまだったが、足を滑らせ緩やかな崖をすべり落ちてしまった。ところが、その滑り落ちた先には、草木が青々と茂る林があり、さらに探し求めていた泉があったのだ。
爺さまは大喜びで、さっそく泉の水を村に引こうと、村に帰ろうとした。するとその時、泉の方から「もし、爺っさま」と誰かが呼び止める声がする。爺さまが泉の中を見ると、そこには白ナマズが泳いでいた。白ナマズは言う。「この泉の水を村まで引くのは無理じゃ。その代りに、私が雨を降らせてあげよう」
するとナマズの言葉通り、にわかに空がかき曇り、大粒の雨が降り出したのだ。こうして宗像の里は救われ、村人は他所に移らなくて済むようになった。
その後、村人たちは太助爺さんの頼みで泉の近くに小さな社を建て、白ナマズを祀るようになった。そして、今でも水に困ってこの泉から水を引こうとすると、必ず雨が降ると言い伝えられている。
(投稿者: やっさん 投稿日時 2012-7-16 10:54)
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 加来宣幸(未来社刊)より |
出典詳細 | 福岡の民話 第二集(日本の民話52),加来宣幸,未来社,1974年04月25日,原題「雨を降らせる白なまず」,採録地「宗像」,話者「水上晃二」 |
場所について | 権現山(武守権現神社の旧境内:白なまずの住んでいる池がある) |
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