昔々、福岡県朝倉郡に阿弥陀ヶ峰という山があったそうな。この山にはいろいろなものに姿を変えては人に悪さをする化け物が住んでおった。
夜遅く山越えをして帰る村人を驚かせて物をとったりするが、とうとう阿弥陀様にまで化けておどかすようになった。そこで村人は山の阿弥陀堂に集まってどうすればよいか話し合うことにしたが、なかなかよい考えが浮かばない。
そうこうしているさなか、娘を人身御供に出せという化け物からの手紙が届いた。もし三日以内に出さなかったら牛や馬はおろか、人も殺すという。村人たちは話し合いを続けたが化け物のいうとおり娘を人身御供に出すしかないだろうという話になった。娘の親は頑として反対した。期日が迫った夜、とうとう村人たちは家を壊してでも娘を引きずり出そうという騒ぎになってしまう。
ちょうどその時、巡業の途中だという見知らぬ娘が現れ、人身御供の代わりになると申し出た。誰も出さずに済むことになった村人たちは一転して祝いの宴会を開き、三日目の夕方、娘を山に送り届けた。その夜、娘は焼け石を使う法力で化け物をやっつけてしまう。
次の日の朝、娘はこのことを村人に話し、山奥の洞穴を調べてみると、体のあちこちを焼かれた歳取った大タヌキが死んでいた。村人たちはそれを見て、自分たちが力を合わせて化け物に立ち向かわなかったことを深く詫びた。娘はそれを聞くと安心したようにほほえみ、再び旅立っていった。
村人たちはその不思議な娘を見送りながら、もしかするとあの人こそ阿弥陀様が身代わりを送って助けてくれたのかもしれないとはじめて気がつき、それからはどんなときでもみんなで力を合わせて暮らしたということです。
(投稿者: みけねけ 投稿日時 2012-6-16 17:45 )
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 加来宣幸(未来社刊)より |
出典詳細 | 福岡の民話 第一集(日本の民話30),加来宣幸,未来社,1960年11月30日,原題「阿弥陀が峯の大だぬき」,採録地「朝倉郡把木町」,話者「小山泰山」 |
場所について | 阿弥陀が峯の阿弥陀堂 |
このお話の評価 | 8.29 (投票数 7) ⇒投票する |
⇒ 全スレッド一覧