昔、兵庫県城崎の円山川のほとり、楽々浦(ささうら)というところに一人に貧しい漁師が住んでおりました。漁師は海に近い川あたりで漁をしておりましたが、一番魚が採れるところであっても暮らしぶりは貧しいものでした。
ある長雨が続いた晩のこと、漁師はお地蔵様が「冷たい、冷たい、出してくれ」と川の底で泣いている夢を見ました。不思議な夢を見たと思った翌朝、漁師が川の中程で漁をしてみると、一回で一日分とも思う魚が取れたのでした。夢中になって漁をしていると、夢で見たお地蔵様が網にかかりました。
漁師は、大漁もお地蔵様のおかげに違いないと陸にあげて丁寧に祀りました。すると、不思議なことに、安置したお地蔵様の鼻から真っ白の米がでてくるようになりました。この米のおかげで、漁師はたちまち裕福になりました。
金持ちになるに従って欲が深くなった漁師は、良い服を着てどんどんお金儲けのことばかりを考えるようになっていきました。ある日、漁師は「お地蔵様の鼻の穴をもっと広げたら、もっと米が出てくるに違いない」と思い、お地蔵様のところへ向かいました。
漁師がお地蔵様の鼻の穴を広げようとノミを打ち込むと、誤って鼻を落としてしまいました。すると、今まで出ていた白米はぴたりと止まってしまいました。漁師がとんでもないことをしてしまったとどんんなに謝っても、二度と白米がでてくることはありませんでした。
その晩、漁師の夢にお地蔵様は現れて、「もうあの川のほとりにいるのは嫌になった。後ろ向きにしてお堂を立てておくれ」と言いました。漁師は自分の行為の罪深さを猛反省して、翌朝、元の漁師の服を着て、お地蔵様の場所を移し、後ろ向きにしてお堂を立て丁寧に祀りました。
そして、反省した漁師はまた昔のように船を出して、漁にでるようになったということです。
(投稿者: もみじ 投稿日時 2012-9-24 11:37)
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 宮崎修二郎(未来社刊)より |
出典詳細 | 兵庫の民話(日本の民話25),宮崎修二朗、徳山静子,未来社,1960年01月31日,原題「鼻かけ地蔵」,採録地「城崎郡」,採集「田淵義直」 |
備考 | 出典名にある「宮崎修二郎」は誤字で、正しくは「宮崎修二朗」 |
場所について | 豊岡市城崎町楽々浦(地図は適当) |
このお話の評価 | 9.33 (投票数 3) ⇒投票する |
⇒ 全スレッド一覧