昔、浪速(大阪)の町に、安やん(やすやん)という若い商人がいました。
安やんは「なんでも屋」さんで、どんな商品でも取り扱いました。安やんは、若いうちに商売のコツをしっかり学んで、いつか浪速の大商人になるのが夢でした。
ある春の日、千里山(ちさとやま)の山菜を採って、町で売る事にしました。山菜を採りながらふと地面を見ると、赤い天狗の鼻が落ちていました。天狗の鼻は大きく立派で、安やんが自分の顔に付けてみると、何とも不思議ないい匂いを感じとりました。
安やんがいい匂いに誘われて千里山の奥に入っていくと、きれいな花々が一面に咲き誇った原っぱに出ました。安やんは、良い匂いの花を一本だけ摘み取って、山菜と一緒に風呂敷に包んで町へ売りに出かけました。
ところで、この町には「火ともし長者」という大金持ちの油商人がいました。この長者の一人娘が長い間病気で寝込んでいて、言葉も言えない程に弱っていました。ところが、安やんが持っていた花の香りを嗅ぐと、娘は「良い匂いだわぁ」と言いました。
喜んだ火ともし長者は、いそいで安やんを家に招き入れて、花を売ってくれと言いました。安やんは「この花は売り物じゃないので、娘さんに差し上げます」と言って、花を差し出しました。安やんのお花のおかげで、長者の娘はすっかり元気になりました。
その晩、安やんは長者の家でご馳走になり、夜更けになって家路につきました。すると、いつの間にか顔に付けていた天狗の鼻が無くなっていました。安やんは「きっと用が済んだので、天狗さんが自分の鼻を取り返しにきたんだなあ」と思いました。
(紅子 2013-11-9 1:08)
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 二反長半(平凡社刊)より |
出典詳細 | 空を飛んだ楼門(名作文庫05),二反長半,平凡社,1978年04月20日,原題「天狗の花」 |
場所について | 千里山(地図は適当) |
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