むかし、ある所にのんびり者の爺さんと婆さんが住んでおった。ある時、婆さんが団子の弁当を作って、畑で働く爺さんに届けに行ったそうな。婆さんが川のほとりを歩いていると、団子が一つ、ポチャンと川に落ちた。そうして次から次に団子は川に落ち、川下に流されていってしもうた。
婆さんが畑に着いた時には、団子は一つしか残っておらんかった。団子が大好きな爺さんが残念がるので、婆さんは落とした団子を探しに川下へ行ってみることにした。途中でお地蔵さんに会ったが、お地蔵さんは「この先は鬼が出るから行かん方がええ。」と言うたそうな。じゃが婆さんはお地蔵さんにお礼を言い、更に歩いて行った。
婆さんはやがて、深い山の中まで来てしもうた。すると、突然大きな赤鬼が現れた。婆さんが必死に命乞いをすると、鬼は飯炊きをするなら命だけは助けてやると言うたんじゃと。こうして婆さんは鬼のねぐらで飯炊きをすることになったそうな。
鬼は毎日毎日ねぐらで喰っちゃ寝しておったが、ある日、仲間が来るから飯を一杯炊いておけと命令して出かけて行った。その時、鬼は混ぜると飯が倍になるという“しゃもじ”を婆さんに渡したんじゃと。婆さんはこの時とばかり、しゃもじを抱えて逃げ出した。そうして家に帰って、爺さんに一部始終を話して聞かせた。爺さんと婆さんがしゃもじで飯を混ぜると、飯はたちまち倍になって、二人は大喜びしたそうな。
ところがこれを隣の欲深婆さんが見ておった。欲深婆さんは自分もしゃもじが欲しくなり、団子を川に流して川下に歩いて行ったそうな。途中、やっぱりお地蔵さんが忠告したが、欲深婆さんは構わず歩いて行った。そうして山の中までやってきた時、また突然赤鬼が現れた。じゃが鬼はすっかり怒っておって欲深婆さんをペロリと喰うてしもうた。こうして欲深婆さんは鬼の腹の中で暮らすことになったそうな。
そうして、のんびり者の爺さんと婆さんは、鬼のしゃもじのおかげでいつまでも幸せに暮らしたということじゃよ。
(投稿者: ニャコディ 投稿日時 2013-6-22 21:39 )
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 小汀松之進(未来社刊)より |
出典詳細 | 出雲の民話(日本の民話12),石塚尊俊、岡義重、小汀松之進,未来社,1958年09月15日,原題「鬼の杓子」,原話「武上美登里」 |
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