岩手県は九戸郡、九戸富士と呼ばれる階上岳のふもとに、源次と言う目はしの利く牛飼いが住んでいた。この源次が所有する大牛は体も大きく角も立派で、牛同志の角合わせでも決して負ける事が無かった。
ある晩、この大牛が突然姿を消してしまい、源次は牛が盗まれたかと慌てに慌てて方々を探しまわった。見つからずに落胆して家に戻ると、牛は既に牛小屋に戻っていて寝ているのであった。
そ んな事が幾度も続いたので、不審に思った源次はある時寝た振りをして様子を伺い、夜中にそっと家を出た牛の後をつけて行った。すると牛はどんどん山奥に分 け入り、やがて山中の原っぱに辿りついた。そこにはこれまた大きな体を持った熊が待ち構えていた。やがて牛と熊はがっと組みついて力比べを始めた。
毎晩牛が居なくなるのは熊と力比べしていたからか、と気付いた源次は、何とかして牛を勝たせてやりたいと思い、ある日牛が寝ている隙をついて、牛の角に油を塗りつけておいた。
その晩も、牛は家をこっそりと出て山奥へ分け入り、熊と力比べを始めた。牛と熊ががっと組み合い、熊が牛の角に手をかけた瞬間、塗ってあった油でずるっと滑り、そのまま牛の角が熊の胴を貫いた。熊は死んだ。
源次は牛が勝ったので大喜びしたが、それ以後牛は腑抜けのようになってしまい、餌を食べるのも拒み続け、幾日か後にあの熊の屍骸と同じ場所で眠るようにして死んだ。
源次は今更ながらに後悔し、牛と熊をその場に弔った。この社は、「牛熊の社」として長い間残っていたという。
(投稿者: 熊猫堂 投稿日時 2012-9-10 10:36)
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 深沢紅子(未来社刊)より |
出典詳細 | 岩手の民話(日本の民話02),深澤紅子、佐々木望,未来社,1957年09月30日,原題「牛飼い源次」,九戸郡誌より |
場所について | 階上岳(はしかみ だけ) |
このお話の評価 | 7.00 (投票数 3) ⇒投票する |
⇒ 全スレッド一覧