むかしむかし、一人の百姓じいさまが馬を連れて、良い声で歌いながら山道を歩いておった。
ところが、山道に差し掛かった頃、道の向こうから、ずしんずしんと天狗様がやって来た。その鼻はじいさまの腕より太く、その顔は神社の塗りたての鳥居より赤かった。じいさまと天狗様はどちらも道を譲らず、二人は道の真ん中でにらみ合った。やがて天狗様は「道を開けないのなら、お前を喰ってしまうぞ!」と怒り始めたそうな。
じいさまは別に怖がる風もなく、喰われるのなら冥土の土産に天狗の術が見てみたいと言うたそうな。すると、実は天狗達の頭(かしら)であるこの天狗様、じいさまが煽てるままに、羽団扇を出して呪文を唱え始めた。「てんつくてんつくてんつく…」と天狗様が呪文を唱えると、天狗様の体はどんどん大きくなり、鼻も頭も雲を突き抜けるほどになってしもうた。
大きくなった天狗様は手を伸ばし、じいさまと馬を掴み上げると、「儂は日本一の天狗じゃ、さあお前を喰ってやる!」と笑った。じいさまは喰われそうになりながら「大きくなることは天狗なら誰でもできると聞いたことがある。お前は天狗の頭だというなら、小さくなることは出来るか。出来ないじゃろう!」と、けしかけた。
すると天狗様はまた羽団扇を取り出し呪文を唱え、今度は豆粒ほどに小さくなった。するとじいさまは天狗様をひょいとつまみ上げ、ぱくっと食べてしもうたそうな。そうしてじいさまは、また良い声で歌いながら馬を連れて歩いて行った。
まあ、天狗様より百姓じいさんの方が一枚上手じゃったというお話じゃ。
(投稿者: ニャコディ 投稿日時 2013-10-19 14:14 )
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 川崎大治(童心社刊)より |
出典詳細 | 日本のふしぎ話(川崎大治 民話選3),川崎大治,童心社,1971年3月20日,原題「百姓じいさんとてんぐ」 |
このお話の評価 | 5.00 (投票数 2) ⇒投票する |
⇒ 全スレッド一覧