むかし、筑前の国糟屋郡の志免(しめ)という所に源兵衛(げんべえ)という川釣りの大好きな男がいた。源兵衛の女房は臨月を迎えており、今にも赤ん坊が産まれそうだった。
それで女房は、今日くらい釣りをやめて自分の近くにいてくれるように源兵衛に頼んだ。しかし、源兵衛は女房の言うことなどお構いなしに、女房をほったらかして川釣りに行ってしまう。
しかし、どういう訳か今日は一匹も魚がかからない。仕方がなく、源兵衛は釣りをあきらめ、村の鎮守様の拝殿で少し休むことにした。しばらくすると疲れが出たのか、源兵衛はウトウトと転寝をはじめた。すると源兵衛は夢を見た。
夢の中で、馬に乗った塞の神(さいのかみ)が拝殿の前に現れ、鎮守様に話しかける。それは、今日、村でお産があるので鎮守様にも見てもらえないかというものだった。しかし鎮守様は、今客人(源兵衛)がいるので見に行けないと断る。それで塞の神は、一人でお産に立ち会うことになった。
源兵衛はフッと目を覚ますが、「なんだ夢か」と言いまた寝てしまう。すると、再び神様たちが夢に現れる。鎮守様は、塞の神に赤ん坊の性別や寿命などを聞いた。塞の神が言うには、赤ん坊は男の子で、7歳の7月14日の夜に雷に打たれて死ぬという。鎮守様がその訳を尋ねると、塞の神が答える。「この子の父親はひどく川漁が好きで、取る必要のない魚までとる。今朝も女房をほったらかして川漁をしている。父親の行いが悪いため、息子の寿命が短いのでございます。」
源兵衛は夢から覚めると急いで家に向かった。源兵衛が家に着くと赤ん坊は既に産まれており、源兵衛が危惧した通り、赤ん坊は男の子であった。
源兵衛はこの子を死なせてはならないと思い、その日から心を入れ替えた。大好きだった川釣りもやめ、野良仕事に精を出し、女房も大事にした。男の子は源吉(げんきち)と名づけられ、すくすくと成長した。
そして月日は流れ、とうとう源吉は7歳の7月14日を迎えた。源兵衛はその夜、石工に作らせた石びつの中に源吉を入れた。石びつの中にいれば、たとえ雷が落ちても大丈夫だろうと思ったからだ。源兵衛は、源吉を石びつに入れると、目をつぶり息子の命を助けてくれるよう一心に神仏に祈った。
ところが、理由も聞かされず石びつに閉じ込められた源吉はたまらない。今日は隣村で夏祭りがあるので、源吉は夏祭りに行きたくて仕方がない。楽しそうな祭りの囃子や笛の音は、石びつの中まで聞こえる。源吉はとうとう我慢できなくなってしまい、源兵衛の目をぬすみ、石びつから抜け出してしまう。
するとにわかに空が曇り、雨が降り出した。そして、大きな雷が石びつに落ち、石びつを粉々に砕いてしまった。ところが、源吉は石びつから抜け出していたので命びろいした。石びつが源吉の身代わりになったのだった。
(投稿者: やっさん 投稿日時 2011-8-6 11:43 )
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 松谷みよ子(角川書店刊)より |
出典詳細 | 土着の信仰(日本の民話06),松谷みよ子,角川書店,1973年9年25日,原題「身がわりの石びつ」,伝承地「福岡県」 |
場所について | 福岡県糟屋郡志免(地図は適当) |
本の情報 | 国際情報社BOX絵本パート2-第069巻(発刊日:1980年かも)/講談社テレビ名作えほん第080巻(発刊日:1987年7月) |
講談社の300より | 書籍によると「福岡県のお話」 |
このお話の評価 | 9.25 (投票数 8) ⇒投票する |
⇒ 全スレッド一覧