昔、九州は遠賀川(おんががわ)の川沿い、垣生(はぶ)の村に太兵衛という男が息子と暮らしていた。
ある日、太兵衛の家に村の庄屋が訪れた。庄屋は、去年の洪水の時に貸した金を取り立てに来たのだ。しかし貧しい太兵衛親子のこと、返す金など家にはない。すると庄屋は、借金を帳消しにする代わりに一つ頼みを聞いて欲しいと言う。
それは、庄屋の家の婆さまが病気にかかり、この原因が狐の祟りなのだと言う。そこで鉄砲撃ちの太兵衛の腕を見込んで、遠賀川の川岸の笹やぶに住む銀狐を撃ち殺せというのだ。そして庄屋は、明日の晩までに撃ち殺すことが出来なければ、村から出て行くよう太兵衛に命じた。
川岸に住む銀狐の親子は、これと言って悪さをする訳でもなかったが、村から追い出すと言われてはこれを撃たない訳にはいかない。太兵衛は鉄砲をもって川岸に下りた。太兵衛は銀狐を撃ち深手を負わせたものの、ちょうどそこにいた少女が銀狐を助けてしまい、これを撃ち殺すことは出来なかった。そして、太兵衛親子は秋祭りのお囃子を聞きながら村を去って行くことになる。
この銀狐を助けた少女は、岩瀬村の千代と言い、去年の洪水で両親を亡くしていた。不思議なことに、千代が銀狐を助けてから千代の家には美しい女が訪れ、二人は親子のように仲睦まじく暮らすようになる。
さて、村を追い出された太兵衛親子だったが、銀狐を撃つことを諦めた訳ではなかった。その後ずっと銀狐の行方を追い続け、一年後の秋祭りの日に再び村に戻って来たのだ。人間の執念というものは恐ろしく、太兵衛の五感は異様なまでに研ぎ澄まされていた。
太兵衛の目には、河原で戯れる千代と女の姿が映っている。しかし太兵衛の鼻は、この女から漂う獣の匂いを嗅ぎとっていた。太兵衛は鉄砲を取ると、この女に向って迷わず引き金を引いた。しかし河原に下りた太兵衛親子が見た物は、寄り添って死んでいる千代と銀狐だった。
銀狐ばかりか、千代まで撃ち殺してしまった太兵衛親子は、犯した罪の大きさを思い、その後巡礼の旅に出て、二度と垣生の村に帰って来ることは無かった。
(投稿者: やっさん 投稿日時 2012-11-12 15:35)
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 加来宣幸(未来社刊)より |
出典詳細 | 福岡の民話 第一集(日本の民話30),加来宣幸,未来社,1960年11月30日,原題「ささぎつね」,採録地「中間市」,話者「白木和政、貞末一雄」 |
場所について | 遠賀川の垣生の河川敷(地図は適当) |
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