昔あるところ(今の東京都板橋区)に父親と息子が暮らしておった。
息子のとめ吉は毎日わらじを作って街へ売りに行き、父親は毎日畑仕事をしておった。貧乏な暮らしではあったが、とめ吉がとても良い息子であったため、父親の顔はいつも晴れ晴れとしていた。
父親はこのような山深いところでは息子に嫁が来ないのではないかと心配し、息子は貧しくて父親に酒を飲ませてあげることもできないことを、申し訳なく思っていた。
ある日のこと。とめ吉が街から帰ってくると、まだ父親が帰ってきていない。心配になって夜道を迎えに行くと、酒に酔った父親がくわを担いで帰ってきた。あわてて父親を連れ帰るとめ吉であったが、なぜ父親が酒を飲んでいるのか不思議に思うのであった。
次の日もそしてそのまた次の日も、父親は酒に酔って帰ってきた。ある日とめ吉は、畑仕事に出る父親の後をそっと追ってみた。父親は若い頃以上に畑仕事をこなしており、特に変わった様子はなかった。
やがて日が傾いてきた頃、父親は峠の一本杉の横の泉までやって来た。泉の水を飲み始めると、父親は酔っ払ってしまった。泉の水が酒だったのである。
翌日、とめ吉が泉の水を飲んでみると、普通の水であった。しかし今まで飲んだこともない、うまい水であった。泉のそばにあるお地蔵さんが、父親に酒を飲ませてあげることのできないとめ吉に代わって、父親に酒を飲ませたのであろう。とめ吉はわずかでも、父親を疑ってしまったことを申し訳なく思った。
とめ吉はその後、泉のそばのお地蔵さんのために祠を建て、泉の周りを整備した。やげて泉に水飲み場ができると、この泉は多くの旅人ののど渇きをいやした。そしてとめ吉は泉の横に小屋を建て、そこでわらじや笠を売った。わらじや笠は大変よく売れたという。
(投稿者: カケス 投稿日時 2013-11-2 18:07)
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 東京のむかし話(日本標準刊)より |
出典詳細 | 東京のむかし話(東京むかし話の会,日本標準)にて、清水町との事。 |
場所について | 出井の泉跡(出井の泉公園内) |
このお話の評価 | 8.33 (投票数 3) ⇒投票する |
⇒ 全スレッド一覧