むかし、ある山里に仲良しの正直者夫婦が住んでいた。
ある年の春、2人はフキを採りに出かけた。家の前には小川が流れており、女房は川上に、夫は川下の方へ、それぞれフキを探しに行くことにした。
ところが、どういう訳か今年は川上にあまりいいフキはなかった。そこで女房は川の上へ上へと歩いて行く。すると、山の奥でたくさんフキが生えている場所をみつけた。女房は夢中になってフキを採り、籠はフキでいっぱいになった。
ところが、女房は帰り道で山の中に迷ってしまい、どうしたものかと途方に暮れてしゃがみ込んでしまった。すると、どこからか牛の鳴き声が聞こえる。牛がいるのだから人家があるのだろうと女房は思い、鳴き声のする方へ歩いて行った。すると、そこには山の中とは思えない立派な門構えの屋敷が建っていた。
屋敷の庭にはたくさんの花が咲き乱れ、牛馬もたくさん飼われていた。女房は屋敷の玄関で「ごめん下されや。」と声をかけるが、屋敷の中からは誰も出てこない。不思議に思い、屋敷の中に入ってみると、座敷には立派な御膳にご馳走が並べられ、湯気を立てている。
女房はさらに奥の間に進む。ところが、うっかり床に置いてあった水の入った鉄瓶を倒してしまい、水がこぼれてしまった。女房は雑巾で水を拭こうと屋敷の物置へ行くが、そこには熊の毛皮やら鉈(なた)などがあった。女房は、ここは山男の屋敷ではないかと思い、急に怖くなってしまった。女房は屋敷を出ると一目散に駆け出し、どこをどう走ったのか、ようやく家にたどり着いた。
さて、それからしばらくして、女房も山での出来事を忘れかけていた頃。女房が川で洗濯をしていると、川上からきれいな椀が流れて来た。女房が手に取ってみると、それは間違いなく山の中の屋敷で見た椀であった。そこで女房は、この椀を米を計る枡(ます)に使った。この枡を使うようになってから、不思議なことに家の米はあまり減らなくなり、さらにこの家にはいいことが続いたので、夫婦は裕福になった。
岩手県の遠野あたりでは、このような山の中の家を“マヨヒガ”と言い、その中の物を何か1つ持ち帰ると幸運に恵まれるという。しかしこの女房は正直者で、何も持ち帰らなかったので、お椀の方から流れて来たのだろうと言われた。
(投稿者: やっさん 投稿日時 2011-10-15 17:45 )
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 深沢紅子(未来社刊)より |
出典詳細 | 岩手の民話(日本の民話02),深澤紅子、佐々木望,未来社,1957年09月30日,原題「マヨヒガ」,遠野物語より |
備考 | マヨヒガ、まよいが、迷い家、まよい家、とも表記する |
場所について | 遠野ふるさと村(マヨイガの森) |
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