昔、東京の中野に旅のお坊さんが住み着いた。お坊さんは修行に明け暮れていたが、当時の中野は人気のないところだったので、寂しさを感じていた。
ある春の日。坊さんは野原で石仏を作っていた。そこにキツネが現れた。キツネはしばらくお坊さんの方を見ていたが、やがて去っていった。お坊さんは久々に生き物を見たので、あのキツネがまた来ないかと気にしながら毎日を過ごしていた。
そんなある日、あのキツネがまたやってきた。お坊さんはキツネに柿をふるまってやった。キツネは食べ終わるとまた帰っていった。それからキツネは毎日お坊さんの所へくるようになった。お坊さんは自分の食事を分けてやるようにした。キツネはすっかり懐き、昼はいつもお坊さんの傍にいて、夕方になると帰っていくようになった。
ある秋の日、お坊さんは用ができて町へ行かねばならなくなった。日が暮れたころ戻ると家に灯りがついている。キツネが囲炉裏に火を焚いて待ってくれていたのだ。その日キツネはお坊さんの家に泊まっていった。
初雪の降る日、お坊さんはキツネの身を案じて遅くまで起きていた。すると戸口から物音がする。開けてみると袋をくわえたキツネが入ってきた。そして「坊さん、この袋の中に米と小豆が入っているから粥でも作ってくれろ。寒いから粥でも食って温まろ」と言った。お坊さんとキツネは仲良く小豆粥を食べた。その晩、キツネはお坊さんと一緒に寝ながら恩返しがしたいと言い出した。お坊さんは火事にあわないこと、水が夏に冷たく冬に暖かければいいと言うた。
その時から中野の水は夏冷たく、冬暖かくなり、火事もあまり起こらなくなったそうな。
(投稿者: hiro 投稿日時 2012-1-13 20:12 )
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 東京のむかし話(日本標準刊)より |
出典詳細 | 東京のむかし話(各県のむかし話),東京むかし話の会,日本標準,1975年09月25日,原題「キツネの恩がえし」,再話「横笛太郎」 |
場所について | 東京の中野(地図は適当) |
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