昔、ある村に狐が人を化かす峠があった。「よし、俺が…」と退治に乗り出した長左衛門だったが、夜中になり手ぬぐいでほおかむりをした女にでくわした。
女は隣村のおつたといい、町に買い物に出た帰りとか。長左衛門は狐なら隣村で逃げだすじゃろうと高をくくり、隣村まで送ることに。その隣村では老婆が出迎え、お礼にと家に招かれる。そして、蕎麦や柏餅をたらふくいただいて、その晩はその家に泊まった。
翌朝、長左衛門を起こす者があり、起きると橋の上だった。狐に化かされたと、昨日の食い残しの蕎麦を見ればミミズ、柏餅を見れば馬糞。あまりのことに長左衛門は気を失ってしまいました。村の者からは笑いのタネにされ、あまりの恥ずかしさに長左衛門は家に引きこもってしまい、腹の虫がおさまらない日々を過ごした。
妙案を思い付いた長左衛門は、お稲荷さまの着物のハリボテを着て大きな袋を?手に峠へと出かけ、狐を待った。そして、女に化けた狐に向かって、「こりゃあ狐。わしは稲荷大明神じゃ。その化け方は何じゃ。頭に耳が出ておるぞ!」と一喝した。これには女もびっくりして、狐の姿を現した。
「今、都では狸が狐を化かすことに一生懸命になっとる。そんな化け方じゃ、人は化かせても狸は化かせん。このわしが修行をつけてやる」と言って、仲間の狐を全員集めた。そして、小判などの全財産を召し出させ、あらかじめ用意していた大きな袋に狐たちを入れた。最後の一匹が袋に入ろうとした時、長左衛門の着ていたハリボテが脱げてしまい、最後の狐はあわてて逃げて行った。
長左衛門はシッカリと袋の口を縛ると、荷車に積んで意気揚々と峠をくだりました。しかし、最後に獲り逃した狐のために、峠には今でも狐が出るんだとさ。
(投稿者: araya 投稿日時 2012年1月18日 11:24 )
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 垣内稔(未来社刊)より |
出典詳細 | 安芸・備後の民話 第一集(日本の民話22),垣内稔,未来社,1959年11月25日,原題「長左衛門のキツネ退治」,採録地「広島市」,話者「米尾広吉、五藤久登」 |
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