昔、周防の国山代の里に五郎という若い大工がおりました。
五郎は、正直者で素晴らしい腕前の大工でしたので、山代の代官屋敷の仕事をもらうことができました。その代官には、「お波」という美しい娘がおりました。五郎は仕事で顔を合わせるうちに、このお波が好きになってしまいました。お波も誠実な人柄の五郎を好きになりました。
しかし、父親である代官は「大工の分際で何事だ」と怒り、お波を家に閉じ込めてしまいました。五郎と離れ離れにされて悲観したお波は、とうとうあの大蛇がでると噂される池で身を投げて死んでしまいました。
代官は驚き哀しんで、原因は五郎のせいだと「あの池のほとりにお波を供養する五重塔を一日で作れ。釘は一本も使わず、楔だけは一つだけ使っても良い。もしできなかったらお前を処刑する」と無理難題を押し付けました。
五郎が池のほとりで途方に暮れていると、巨大な大蛇が空から現れ、「楔(くさび)一つ作って目の前の五重塔のてっぺんに打ち込みなさい」と告げました。不思議に思った五郎でしたが、素早く楔を一つ作り上げました。すると立派な白木の五重塔が現れ、五郎が塔のてっぺんに楔を打ち込むと五重塔は金銀で輝きました。
翌朝、見事な五重塔をみた代官は驚くとともに、五郎が恐ろしくなりました。そして五重塔の前で祈っていた五郎を見つけると、背後から斬り殺してしまったのでした。
そのとたんに五重塔は元の大蛇の姿に代わり、息絶えた五郎を咥えると空高く飛び立って山代の里に大雨を降らしました。怒った大蛇が降らせた雨は山代の里を大洪水にさせ、代官は一緒に押し流されてしまいました。山代の里の者は、それ以降、大蛇の祟りを恐れて池のほとりに二人を供養する祠を建て、長く祀ったそうです。
(投稿者: もみじ 投稿日時 2012-7-7 0:43 )
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 松岡利夫(未来社刊)より |
出典詳細 | 周防・長門の民話 第一集(日本の民話29),松岡利夫,未来社,1960年09月14日,原題「大蛇の塔」,採録地「玖珂郡」,話者「西村巖、原田多作、原田角男」 |
場所について | 山代代官所屋敷跡(現、本郷小中学校) |
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