昔、葉山村に清兵衛(せえべえ)という貧しい百姓が住んでいました。清兵衛には五人の子供がいて、貧しいながらも毎年12月28日になると餅をつき、ささやかながらお正月をお祝いしていました。
ある年の12月28日、例年通り一家で餅つきをしていると、突然見かけない老婆がやってきました。「餅つきの手伝いをしに来た」と言って、さっさと餅を丸めはじめ、あっという間にお餅が出来上がりました。あっけにとられていた清兵衛でしたが、老婆は「この家にはやがて幸せがやってくる、必ず毎年12月28日に餅つきをしなさい」と念をおして帰っていきました。
あの不思議な老婆の言う通り、翌年から仕事もうまくいき、子供たちも元気に成長していきました。そして毎年毎年、あの老婆が12月28日にやってきて餅つきを手伝っていくのでした。清兵衛一家も年々豊かになり、ついに十年後には長者になっていました。
しかし金持ちになった清兵衛は、村人から「鬼の清兵衛」と呼ばれる男になっていました。すっかり感謝の気持ちを忘れてしまい、あれだけ老婆から念を押されていた28日の餅つきの日を、一日だけ早めてしまいました。
翌日28日に、あの老婆がやってきて「約束を破ったな、もうこれまでじゃ」と言い残して、激しい風と共に消えていきました。この老婆は清水谷に住むという山姥だったのです。
この山姥の言った通り、清兵衛に不幸が続くようになりました。一人娘が病死し、商売もうまくいかなくなり、みるみるうちに没落していきました。もう今となっては、どうする事もできませんでした。
(紅子 2011-12-30 5:36)
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 市原麟一郎(未来社刊)より |
出典詳細 | 土佐の民話 第二集(日本の民話54),市原麟一郎,未来社,1974年08月30日,原題「舞の川のヤマンバ」,採録地「高岡郡」,話者「永山雄樹」 |
場所について | 高知県土佐の葉山村(地図は適当、現在は津野町) |
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