昔、奈良の吉野の山深い里に、たくさんの猟師たちが暮らしておった。その中でも、栄造(えいぞう)という男は、肝っ玉がすわった鉄砲の名人だった。
年末になり、栄造はまた山に入ることにした。最近、この近くの山では化け物から猟師が八つ裂きにされる事件が起きていたが、剛腕の栄造はあまり気にとめていなかった。さっそく鉄砲の弾作りに取りかかった時、痩せこけた子猫が外で震えて鳴いている声を聞いた。猫好きだった栄造は、かわいそうにと思い家の中に入れてやった。
子猫は床に転がっている弾にじゃれ付いて遊んでおったが、おっかあが猫の様子がおかしいことに気が付いた。そこでおっかあは、「明日、山へ入るときは隠しダマを持って行きなさい」と忠告した。この隠しダマとは、南無阿弥陀仏と刻まれていて、必ず当たるが使ったら猟師を辞めないといけないという言い伝えのある弾だった。
まさかあんなチビ猫が・・・と栄造は思ったが仕方なく隠しダマを持って山に入った。
栄造が山中で一服していると、黒雲の中から巨大な化け猫が現れた。それは紛れもなく昨夜の猫だった。化け猫は弾数を把握していたので、栄造が弾切れになったとわかると一気に襲いかかってきた。栄造は覚悟を決めて最後の隠しダマをぶっ放し、九死に一生を得ることができた。
その日12月20日から、栄造は言い伝え通りぷっつりと猟師をやめた。この時に使っていた鉄砲は、恐怖のせいか毎年12月20日にはベットリと汗をかくようになった。
(紅子※サラ文庫の絵本より 2011-8-16 21:04)
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | クレジット不明 |
場所について | 吉野郡川上村柏木辺りの民話か? |
本の情報 | サラ文庫まんが日本昔ばなし第27巻-第132話(発刊日:1978年12月20日) |
サラ文庫の絵本より | 絵本巻頭の解説には地名の明記はない |
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