昔、富山県の上平村(かみたいらむら)では、それは見事な赤かぶら(赤かぶ)がとれた。そのおいしさは評判で、お城のお殿様もこの赤かぶらが大好物。そこでお殿様は、毎年秋に、村人に命じてこの赤かぶらを城まで運ばせていた。
ところがある時、村から城へ向かう峠に、いたずら者の天狗が住み着くようになった。この天狗、美味しいものが大好きで、峠を通る村人を見つけては、ぼた餅や赤飯を騙し取り、ついにはお殿様に届ける赤かぶらまで横取りしてしまうのだった。
天狗も、一口食べてこの赤かぶらが気に入ったと見え、それからというもの、お殿様に届ける赤かぶらは全部天狗に取られてしまう。こんな訳で、村には誰も赤かぶらを届けようとする者がいなくなった。困り果てた村人は、村はずれに住む爺さまと孫娘に赤かぶらを運ぶ役を頼み、二人はお城まで赤かぶらを運ぶことになった。
さて、爺さまと孫娘が、赤かぶらを手押し車に乗せて峠にさしかかると、やはり天狗が現れた。そして手押し車の中から、ひときわ大きな赤かぶらを手に取った。すると、どうだろう。「お前の顔は赤い。赤かぶらの祟りじゃ!!」と、突然かぶらから声がして天狗の顔を叩いた。実は、このかぶらに見えたものは、孫娘が赤い風呂敷に包まったものだったのだ。
突然のことに天狗は肝を潰し、ほうほうの体で逃げて行く。こうして二人は、無事お城に赤かぶらを届け、お殿様から褒美をたくさんもらった。
ところが腹を立てた天狗は、帰り道で二人を待ち伏せしていたのだ。天狗は峠で孫娘をさらって、自分の住家に連れて行ってしまった。「さて、どこからガブリといこうか?」天狗は、もとより孫娘を食うつもりなどなかったが、悔しかったので孫娘を怖がらせた。
すると孫娘は、足はお爺さんの代わりにお使いに行くからダメ、この手はお爺さんの肩をさするからダメ、頭から食べて下さいと言って、風呂敷を頭に被って泣き出した。天狗は、このお爺さん思いの孫娘に心を打たれ、孫娘を村に帰してあげた。そして村に初雪が降る頃、自分から村を去って行ったそうだ。
(投稿者: やっさん 投稿日時 2012-7-18 17:31)
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 富山のむかし話(三丘社刊)より |
出典詳細 | 里の語りべ聞き書き 第03巻,川内彩友美,三丘社,1988年08月10日,原題「天狗と赤かぶら」 |
場所について | 南砺市の旧上平村(地図は適当) |
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