猟師の作左は、名うての鉄砲撃ちでしたが、大変無口な頑固者で知られておりました。
ある時、お殿様の巻狩りが催され、作左も鉄砲の指南役として村人ともどもお侍衆に同行しておりました。方々でお侍衆が兎や山鳥を仕留めて、お殿様は上機嫌でしたが、ふいに藪から大猪が飛び出し、人々を押しのけてお殿様の陣へと向かって来たのです。
狼狽するお殿様に作左は引き金の頃合いを指示しますが、怖気づいたお殿様は的を外し、陣は大猪に踏み崩されてしまいました。あまりにふがいないお殿様に激怒した作左は棒きれでその脳天をしたたか打ちつけてしまいました。
ほどなくして我に返った作左は地に付して詫びましたが、息を吹き返したお殿様は激怒して怒鳴り散らし「後日連絡する」と言い捨ててお城へ引き返していきました。
村では、作左は打ち首になるという話で持ち切りでしたが、お城から届いたしらせは驚くべきものでした。それによると、城内の庭先で籠から解き放った二羽の鴨を一発の弾にて撃ちぬくことができれば、この度の無礼を許してつかわす、というのです。
あまりの無理難題を誰もが無理と思いましたが、作左だけはキッと口を結び、その日から鉄を煎り、鉄砲の弾づくりにかかりました。家では作左の女房が、夜通し仕事を続ける作左を見るに堪えず泣き崩れる始末でしたが、それでも作左は黙々と弾を造り続けました。
約束の当日は雲一つない快晴でありました。お城に赴いた作左を見下ろしながら、お殿様は籠の鴨を放たせました。静まり返った城内に二羽の鴨の羽音だけが響く中、作左は身じろぎひとつせず宙を見据えておりました。
すると、飛違う二羽の鴨の姿が真上に上った太陽の中に重なったその瞬間、作左の鉄砲は目にもとまらぬ速さで火を噴き、二羽の鴨は一同の眼前に舞い落ちてきたのでした。
呆然とするお殿様や家来衆を尻目に立ち去っていく作左を、人々はそののち、だんまり作左と呼んだということです。
(投稿者:ゲスト 投稿日時 2014-1-16 23:03)
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | クレジット不明 |
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