昔、ある浜辺の村に子供の居ないお爺さんとお婆さんが住んでいた。
ある日お爺さんが海での魚釣りから帰ってくると、お婆さんが松原で赤ん坊を拾ったと言う。しかしお爺さんは親が心配しているに違いないと言い、次の朝二人は赤ん坊を連れて松原へ行ってみた。だが日が暮れるまで待っても、又翌日から幾日も続けて行ってみても、親は現れなかった。二人はこの子を神様から授かったのかも知れないと考え、鯱丸(しゃちまる)と名付けて大切に育てることにした。
こうして二人に可愛がられて鯱丸はすくすくと育っていった。ところが5歳になったある日、鯱丸は突然姿を消してしまう。二人は必死になって捜したが、鯱丸を見付けることはできなかった。その晩松原で泣く赤ん坊の夢を見た二人は、居ても立っても居られずにまだ暗い内に松原に行ってみると、昔お婆さんが鯱丸を拾ったところにひょうたんがひとつ落ちていた。
これも何か鯱丸に縁のあるものだろうと家に持ち帰った二人が栓を取ると、なんと中から鯱丸の声がして小判が一枚飛び出してきた。二人は鯱丸の声が聞けるのが嬉しくて、何度も栓をしては抜くのを繰り返すと、たちまち家の中には小判の山ができた。お爺さんはこの大事なひょうたんがネズミにかじられでもしたら大変と、紐で縛って天井からぶら下げた。
ところが二人が寝てしまった夜中に、泥棒が小判を盗みに入ってきてしまう。泥棒は小判を全部風呂敷に包んでしまうと、ぶら下がったひょうたんに気が付いて、酒でも入っているのだろうと栓を抜いた。途端に「誰だ、誰だ!」という鯱丸の大きな叫び声がひょうたんから飛び出し、泥棒はびっくりして小判を置いて逃げていってしまう。
目を覚ました二人は、鯱丸に守られていることに安心して再び安らかな眠りに就くのだった。それからもお爺さんとお婆さんは、鯱丸の声が聞きたくなるとひょうたんの栓を抜いた。そして出てきた小判は困っている人にも分け与え、大切に使ったという。
(引用:狢工房サイト)
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 徳山静子(未来社刊)より |
出典詳細 | 紀州の民話(日本の民話56),徳山静子,未来社,1975年04月25日,原題「ふしぎなひょうたん」,採録地「東牟婁郡」,話者「沖野岩三郎」 |
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