むかしむかし、あるお城にものすごく餅が大好きな殿様がおりました。ところが、このお城はとても貧乏で、家臣達の給料もろくろく払えない有様なのでした。あんまり貧乏なのでお城には餅米もなくなり、お殿様は餅を食べることが出来なくなりました。「餅、喰いたい。餅、喰いたい。」と、お殿様がいくら騒いでも、ないものはないのです。
やがて正月が近づくと、城下の村人達の家で餅をつく音がお城まで聞こえてくるようになりました。その音を聞くだけで、そわそわと落ち着きがなくなるお殿様を見て、家老の爺はお殿様にあることを入れ知恵しました。
それからは、お殿様は城下から餅をつく音が聞こえてくると大喜びで城下に走って行くようになりました。そうして餅をついている家にたどり着くと、「おお見事な餅じゃのう~。」と、村人達がついた餅をパクパクと食べてしまうのでした。
そんなことが何度も続いたので、ある時、百姓の爺様が恐る恐る訳を尋ねると、お殿様は「腹が減ったら来るように、そち達が呼んでくれたのじゃろう。余は嬉しいぞう~。」と、餅を全部食べてにこにこ顔をするのでした。
村人達は寄合を開き、どうやら餅をつく時の「ぺったらこ、ぺったらこ」という音が、「減ったら来い、減ったら来い」と聞こえているのではないかという話しになりました。だから餅つきを始めると、腹を減らした殿様がやって来て、餅を全部食べてしまうのです。そこで、村人達は音を立てずに餅をつく工夫をするようになりました。
城下から餅をつく音がしなくなったのでお殿様は大変不思議がりましたが、家老の爺は「わが城下にもなかなか知恵者がおったとみえる。」と納得顔でした。この辺りで餅をつく時に、臼の下に藁を敷いて音をたてないようにするのは、こんなことがあったからだそうです。
(投稿者: ニャコディ 投稿日時 2013-10-27 21:32 )
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 愛知県 |
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