昔、武芸の道を究めるため諸国を巡り歩く橋本庄左衛門という侍がいた。
この庄左衛門、ある時宿屋で“めいしん秘密の法”という不思議な術の話を聞いた。なんでも、災難に遭った時に一生に一度だけ使える秘法なのだという。そこで庄左衛門は、早速この秘法を知っている山寺の和尚を訪ねることにした。
庄左衛門は和尚に会うと、早速めいしん秘密の法を伝授してもらいたいと頼み込んだ。和尚は、今すぐに伝授とはいかないと言い、とりあえず庄左衛門には引き取り願ったが、伝授にまんざらでもなさそうだ。
ところが、このやり取りを聞いていた寺の小僧は黙っていられない。これまで何年も和尚のために働いてきたのに、見ず知らずの侍に秘密の法を先に教えるなんてあんまりだ。小僧はたまらず和尚に抗議する。すると和尚は、今晩のお経を手を抜かずしっかり読経したら教えると言い、意外にもあっさり伝授を許可してくれた。
さて、それからも庄左衛門は足繁く山寺に通い、和尚と旅の話などに花を咲かせた。そんなある冬の日、この日は雪が降っていたので、和尚は庄左衛門に寺に泊まっていくよう勧めた。
庄左衛門が寺に泊まるので、寒い本堂で寝るはめになった小僧は、夜中に小便をしに外に出た。するとそこに、白い大入道が現れ、ゆらゆらと揺れながら小僧の方に向って来たのだ。小僧はこの時とばかり、めいしん秘密の法を使った。すると、閃光とともに爆発が起き、爆風は辺りの木々をなぎ倒した。
何事が起きたかと、和尚と庄左衛門が境内に出ると、そこには干してあった和尚の着物が真っ二つに裂けており、小僧が爆発で出来た大穴の中で震えていた。小僧は、和尚がしまい忘れた着物が風にたなびいているのを化け物と見間違えたのだ。
めいしん秘密の法の威力を目の当たりにした庄左衛門は、なまじ自分などがこの法を伝授しない方が良いと考え、秘法の伝授を受けずに再び修業の旅に出ることに決めた。そして、秘法の伝授を受けに山寺に戻ることは二度となかったと言う。
(投稿者: やっさん 投稿日時 2012-9-19 14:26)
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 川崎大治(童心社刊)より |
出典詳細 | 日本のふしぎ話(川崎大治 民話選3),川崎大治,童心社,1971年3月20日,原題「めいしん秘密の法」 |
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