むかしむかし、薬の商いをしている商家に一匹のネコが飼われておりました。このネコ、暑いのも寒いのも嫌い、寝ることだけが好きという横着者でした。そうして、この商家の天井裏にはたくさんの鼠も住んでいました。
ある年の大晦日のことです。家の人達は大掃除や正月の飾り付けで大わらわ。ところがネコは、いつもと変わらず寝てばかりいたので炬燵から追い出されてしまいました。仕方なくネコはネズミ達の所に行き、「今日一日決して君達を捕って食べたりしないから、この暖かい天井裏で昼寝させてくれ~。」と頼みました。
ネズミの大将が「言葉だけでは安心できん。今日一日、爪と牙を我々に預けてくれれば、ここに置いてやっても良い。」と言うと、ネコはしぶしぶネズミ達に自分の爪と牙を抜いて預けました。そうしてネコは暖かい天井裏でたっぷり昼寝を楽しんだのでした。
やがて夜になると天井裏も冷えてきたので、ネコは階下に降りることにしました。ところがネズミ達は、今日一日預かる約束だからと、爪と牙を返してくれません。
ネコが仕方なく階下に降りて行くと、商家の主人に正月の餅の見張りをするように言いつけられました。ネコがしぶしぶ餅の番をしていると、やがて除夜の鐘が鳴り始めました。するとネズミの大群が現れ、楽しげに歌いながら大事な餅を次々と運び出しはじめるではありませんか。
ネコが怒ってネズミを捕まえようとしても、爪のない肉球の間からするりと逃げてしまうし、牙のない口で噛みついてもネズミ達はくすぐったいと笑いだす始末。そうして除夜の鐘が鳴り終わる頃には、ネズミ達はすっかり餅を運び出してしまいました。そうして呆然としているネコの前に、天井裏から爪と牙がパラパラと落ちてきたのでした。
結局、ネズミ達は好物の餅を腹いっぱい食べて大喜びの正月を過ごし、あのネコは餅の番もできぬ役立たずと追いかけられ、散々な泣き正月になったということです。
(投稿者: ニャコディ 投稿日時 2013-4-24 21:16 )
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 柴口成浩「岡山県小田郡昔話集」より |
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