あるところに、お爺さんとお婆さんが住んでいました。この老夫婦には子どもが居りませんでしたが、蛇の息子がいました。
この蛇は、お爺さんが山で見つけてみた卵が孵ったもので、子どものいない二人は蛇にハル(春)と名前をつけてとても可愛がっておりました。しかし、大きく成長していく蛇のハルに、村人は「いつか老夫婦が食べられてしまう」と気が気ではありません。とうとう村人達は「明日、ワシ等が蛇を始末してやるから」と二人に告げました。
その夜、ハルを殺すことなどできない二人は、泣く泣く人里離れた山奥にハルを捨てることにしました。一人ぼっちになったハルは、山奥で一人で地面を掘り、大きな池を作ってその中で暮らしていました。
それから季節は巡って春が来て、ハルが作った池の周りに梅や桜などが咲き乱れ、村人たちは揃って弁当を作ってお花見にでかけました。花見をしていた子どもが池に落ちてしまい、ハルが溺れていた村人を助けてくれたのでした。
村人達は、追い出したのにも関わらず助けてくれたハルに沢山のお餅を出してお礼をしました。しかし、ハルは受け取らず、「自分を育ててくれたお爺さんとお婆さんにあげてください」と言って、年老いた二人を心配していると告げました。
村人達は、「ワシ等が責任をもって二人の面倒は見る」とハルに約束をして、それを聞いたハルは安心したように頷きました。そして池を横切って泳いだあと、さらに山の奥深くに姿を消して二度と現れることはなかったということです。
そして、ハルが掘った池は「春ヶ池」と呼ばれるようになり、村人は池のほとりに小さな社を建てて親孝行なハルを偲んだということです。
(投稿者: もみじ 投稿日時 2012-6-27 22:56 )
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 垣内稔(未来社刊)より |
出典詳細 | 安芸・備後の民話 第二集(日本の民話23),垣内稔,未来社,1959年11月30日,原題「へび息子」,採録地「高田郡」,話者「東正信」 |
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