昔、山の中の小さなお寺に、和尚さんが一人で住んでいました。夏になると大量な蚊やノミに襲われて、なかなか眠ることが出来ないでいました。
ある晩の事、夕食をすませてぼんやり寝転んでいると、どこからか小さい馬が現れました。この馬の背には、立派に武装した小さな小さな武士が乗っていました。やがて、また別の小さな馬が現れ、やっぱり背には小さな武士が乗っていました。
いつのまにやら、部屋中に小さな武士たちがひしめき合い、空を飛んでいる蚊を見つけると肩に乗せていた鷹を放ちました。また、畳の上で跳ねているノミを見つけると、連れていた小さな猟犬に追わせました。しばらくの間、和尚さんの部屋の中で激しい戦いが続き、やがて静かになりました。
そこへ黄色の衣をつけ金色の冠をかぶった人が、小さな牛車に乗って現れました。武士たちは、捕えた蚊やノミを誇らしげに高々と差し上げ、黄色い衣の人は何やらねぎらいの言葉をかけている様子でした。やがて牛車も武士たちも空中に舞いあがり、外へ消えていきました。
不思議な事もあるもんだ、、、和尚さんが周囲を見渡すと、一匹だけ小さな猟犬が壁のきわに残っていました。和尚さんは犬をつまみあげ、大事に硯箱(すずりばこ)の中に入れました。この犬は、ご飯をやっても一向に食べることなく、その代わりノミや蚊を一匹残らず捕まえました。
おかげで、和尚さんも安心して熟睡することができ、朝晩のおつとめに励む事ができるようになりました。
(紅子 2012-5-11 0:20)
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 川崎大治(童心社刊)より |
出典詳細 | 日本のふしぎ話(川崎大治 民話選3),川崎大治,童心社,1971年3月20日,原題「小さな猟犬」 |
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