昔あるところに久助という名前の人のいい木こりがいた。ある日のこと、いつものように木を切っていた久助は、うっかり斧を持っていた手を滑らせてしまった。斧は久助の手を離れると空高く舞い上がり、岩の上で昼寝をしていた天狗の鼻の先を切り落としてしまった。
久助は天狗に鼻先を切り落としてしまったことを詫びた。しかし天狗は気にも留めず「自分は1000日の修業を9日で逃げ出した未熟者。自分にも非はあった。しかしこんなこともできる」といって、鼓を取りだしポンポンと打つと、鼻は元に戻った。驚く久助をよそに、天狗はさらに蓑と笠を身に着けて、姿を消して見せた。これを見た久助は、母親が作ってくれた握り飯と引き換えに、天狗から鼓、蓑、笠をしばらく貸してもらうことにした。
村に帰ってきた久助は、さっそく蓑と笠をつけて姿を消した。そして大酒のみの虎十の家にもぐりこんで虎十をからかったり、馬子の孫六の馬を連れだしたり、お寺のお供物を食べてしまったりと、いたずらのやりたい放題であった。次に久助は自分の低い鼻を高くしようと、鼓をポンポンと打った。鼻はどんどん伸びて行った。調子に乗ってさらに鼓をたたくと、鼻は山や海を越えて、お隣の中国にまで伸びて行った。
久助の鼻先は中国のお寺の庭の池の中に落ちた。池ではちょうど、きれいな若い娘が髪を洗っている最中であった。娘は大変驚いた。そのころ久助はそろそろ鼻を元に戻そうと、再び鼓をポンポンと叩いた。しかし鼻先が動かない。娘が鼻先を池の岩に縛り付けてしまったのである。
そこへ天狗がやってきて「使い慣れないものを使うからじゃ」と言って笑った。気が付くと、久助がいたずらをしかけた人たちがみんな周りに集まってきて久助のことを笑っている。
久助は「どうしたら鼻がすぐに短くなるのか」と天狗に聞いた。天狗は「鼓を逆さにしてポンと叩けばよい」と答えた。その通りに久助がすると、久助の体は天高く舞い上がり、西の空へと消えて行った。その後久助は中国で、あのきれいな若い娘と結婚して、幸せに暮らした、と風のうわさで村にも伝わってきたということである。
(投稿者:カケス 投稿日時 2014/2/12 21:48)
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 岐阜県 |
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