東京は小平(こだいら)の周辺では「亥の子の牡丹餅」と言って、旧暦の亥の日に牡丹餅を作って神様に供え、無病息災・子孫繁栄を祈願するならわしがあった。
ある農家のおっかさんが、亥の子の牡丹餅を親戚の家に持って行くその途中、知り合いのおじさんの大根畑の傍で腰をおろしてひと休みしていた。その折、しゅうとめさんが「お弁当にしなさい」と別に包んでくれた牡丹餅を頬張っていると、どうしたはずみか牡丹餅の一つが畑の中に転がり落ちて消えてしまった。
ひょうきんなおっかさんはふと畑の大根に「牡丹餅は差し上げますで、みんなで食べて下され」と声をかけると、突然畑のそちこちから「これはなんじゃ」「旨そうな匂いがする」とか細い声。
すると畑の傍に生えていた栗の木が突然口を利いた。「それは牡丹餅と言うものじゃ、旨いから食べてみろ」。栗の木の言葉が終わるや否や、畑の中から大根の子供が次々と姿を現わし、みんなで仲良く牡丹餅を平らげてしまった。おっかさんはその様子を呆れて見守るばかり。
そんな事があってから間もなく、この知り合いの畑に生える大根はどれも太く立派に育つようになった。おっかさんから話を聞いた村人たちは、これに習って自分達も畑に牡丹餅を供えるようになったんだと。
(投稿者: 熊猫堂 投稿日時 2012-9-5 4:49 )
ナレーション | 常田富士男 |
出典 | 東京都 |
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