昔、ある山奥に母親と娘が住んでいた。
二人は、大変貧しい暮らしだったので、娘は長者の家へ奉公に出ることになった。娘は、町の職人に頼んで母の顔の面を作り、母の面をもって奉公に出た。
長者の家での仕事は、朝は暗いうちから炊事・昼になったら掃除・洗濯、風呂を沸かす仕事など重労働であった。それでも娘は、一日の仕事が終わると、自分の部屋の針箱の引き出しにしまってある、母親の面と話をすることを楽しみにしていた。
ところが、娘が母親の面と話をしているところを、いたずら好きの下男に見られてしまった。下男は娘を脅かしてやろうと、こっそりと母親の面を鬼の面に取り換えてしまった。
そうとは知らない娘が、いつものように針箱の引き出しを開けると、そこには鬼の面が入っていた。「これは母親の身に何かあったに違いない」と思った娘は、夜の暗い中を自分の家を目指して走った。
やがて、暗い山道の中にぽつんと明かりが見え、そこには体格のいい3人の男たちがいた。娘は男たちに捕まってしまい、母のことが心配でしたが逃げることもできず、一晩中たき火の番をすることになった。
そのうち、男たちは賭け事を始めた。火の番をしていた娘の顔は、だんだんほてって熱くなり、持っていた鬼の面をかぶった。そうとも知らない男たちは、娘が鬼になったと勘違いし、小判も持たずにあわてて逃げて行った。
娘は、無事に家に帰ることができ、もちろん母も無事だった。娘は、男たちが忘れて行った小判をすべて奉行所に届けたが、お奉行様は「おまえの親孝行に免じて神様がくださったんだろう」と、すべて小判を娘に与えた。
その後、娘は母と一緒にずっと幸せに暮らしたそうだ。
(投稿者: カケス 投稿日時 2013-9-14 21:05)
ナレーション | 市原悦子 |
出典 | 小汀松之進(未来社刊)より |
出典詳細 | 出雲の民話(日本の民話12),石塚尊俊、岡義重、小汀松之進,未来社,1958年09月15日,原題「母の面と鬼の面」,原話「仁多郡誌」 |
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